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TM NETWORK「SCREEN OF LIFE」:積み重ねた記憶が巻き戻され、スクリーンは最後の場面を映す
2004年2月、TM NETWORKのシングル「NETWORK」がリリースされました。その1曲目に収録された曲が「SCREEN OF LIFE」です。その後、ミックスを変えてアルバム『NETWORK -Easy Listening-』に収録されました。サウンドは、小室さんが当時傾倒していたトランスの要素を含みます。ボーカルのメロディはポップスらしくなく、さりとてラップでもなく、強いて言えばポエトリー・リーディングに近い雰囲気を漂わせます。語りかけるような、それでいて独白のような雰囲気を醸す、ダイアローグとモノローグを行き交う歌です。

木根さんのエッセイによれば、もともと2004年の20周年企画(DOUBLE-DECADE)でリリースされるシングルには、「TAKE IT TO THE LUCKY」(デビュー曲「金曜日のライオン」のリメイク)と、木根さんが書いた「風のない十字路」が収録される予定でした。リリースが近づいた頃、小室さんがもう1曲入れたいと言い出し、録音されたのが「SCREEN OF LIFE」です。小室さんが詞を書きました。

「SCREEN OF LIFE」は一連のDOUBLE-DECADEコンサートで披露され、その後はウツが自身のコンサートで演奏しました。そして再びセット・リストに名を連ねたのは、2015年のコンサート〈TM NETWORK 30th FINAL〉です。2004年はアルバムの音で披露されましたが、2015年はシングルに近いアレンジで演奏されました。
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Electronic sounds with sound of an acoustic guitar

〈TM NETWORK 30th FINAL〉での「SCREEN OF LIFE」は、木根さんが爪弾くアコースティック・ギターから始まりました。哀愁漂う音が穏やかに響きます。音のかけらを丁寧に集めるように爪弾き、やがて「SCREEN OF LIFE」のテーマ・メロディが形作られます。シングル・ミックスではエレクトリック・ギター、アルバム・ミックスではシンセサイザーが奏でていたメロディです。


ソロが終わると、シンセサイザーやエレクトリック・ギターとともに、再び木根さんがテンポを上げて、アコースティック・ギターでテーマ・メロディを弾きます。テーマ・メロディが一巡するとリズムが飛び出し、音が厚くなって「SCREEN OF LIFE」のイントロが始まります。

サビ前のブリッジでドラムが抜けると、木根さんのアコースティック・ギターが存在感を増します。そのカッティングはEDMアーティスト(例えばAVICII)のアプローチに似ています。エレクトロニック・サウンドとアコースティック・ギターの音は親和性が高いことを、この曲で体験することができます。アコースティック・ギターの音はバラードで鳴ると切ない響きを醸して歌を支えますが、エレクトロに組み込まれると鋭さを増してアクティブな印象を与えます。


Rewind all the memories to project a last scene on a screen

当時は小室さんが作詞で新たな表現を模索し始めた時期です。最初は「風のない十字路」の詞を小室さんが書こうとして、諸事情により見送ったそうな。それに代わる器として「SCREEN OF LIFE」を制作したのではないかと僕は考えています。

「SCREEN OF LIFE」には、小室さんが詞を書いたTM NETWORKの曲の中でも珍しく、「生きること」と「死ぬこと」が綴られました。2004年に聴いたとき、どこにも届かない、たどり着かない無力感が漂っていると思いました。虚空を漂う言葉の連なり。届かない言葉のフラグメント。自らの記憶に深く潜って内省し、自問自答を繰り返しているかのようでした。

リリースから十年以上が経過し、歌詞の捉え方も変わりました。2015年のコンサートで久々に聴くと、言葉の端々に漂う絶望・孤独・諦観は薄まり、ただひとりの人を思う惜別の言葉となったように思えました。かつては誰かを思うことで「自分」が救われたいというある種のエゴに満ちた気持ちだったのに対し、十年を費やすことで「自分たち」のラスト・シーンを描くようになった。そのようなことを思います。

2019.02.25
by mura-bito | 2019-02-25 21:50 | Music | Comments(0)
TM NETWORK「IGNITION, SEQUENCE, START」:世紀の狭間に打ち上げられたTM NETWORKのロック・スタイル
TM NETWORK「IGNITION, SEQUENCE, START」は2000年10月にシングルとして発表された曲です。“Ignition sequence start.” とは、スペース・シャトルが発射されるときの号令だそうな。「点火そして発射」を意味するその言葉は、広大な宇宙空間に向かう旅立ちのトリガーとなります。

小室さんは、この曲を書いたことで、年末にリリースされたアルバム『Major Turn-Round』への道筋が見えたと語りました。32分強の表題曲を軸にしたアルバムはプログレッシヴ・ロックをテーマに掲げており、「IGNITION, SEQUENCE, START」はリード・トラックといえます。聴き手をプログレッシヴ・ロックの宇宙に導くサウンドです。
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シングルでは、イントロから低空飛行するように鳴るシーケンサーのフレーズが響き、小室さんが弾くロック・オルガンHAMMOND B-3と「葛G」こと葛城哲哉のギターが絡みます。ロックに染まったサウンドが全体を引っ張ります。この曲を含めてさまざまなロック・サウンドを提示してきたTM NETWORKですが、そのロック・スタイルは洗練された印象があります。プログレッシヴ・ロックやハード・ロックといったオールディーズな音楽もTM NETWORKのフィルターを通すことで、荒々しく偽悪的な格好良さではなく、インテリジェントで涼しげな格好良さが漂います。

アルバム・バージョンではアレンジが大胆に変わっており、インテリジェンスに加えて重厚さが加わります。フェラーリのエンジン音を加えた新しいイントロもインパクトがありますが、特筆すべきはSimon PhillipsとCarmine Rojasから成るリズム・セクションでしょう。Simon PhillipsはTOTOにも加入していた有名なドラマーですが、上原ひろみとのジャズ・トリオも知られています(彼の演奏を生で観た体験は筆舌に尽くしがたい)。一方、Carmine Rojasは、今もなお多くの人の記憶に残るロック・スターDavid Bowieのツアーに参加し、バンドマスターを担当したこともあるベーシストです。重厚かつ技巧的なドラムとベースの音が加わることで「IGNITION, SEQUENCE, START」は厚みを増し、テクニカルなアンサンブルを聴くことができます。
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ライブで「IGNITION, SEQUENCE, START」が披露されたのは、2000年12月から2001年1月にかけて行なわれ、世紀をまたいだツアー〈TM NETWORK Tour Major Turn-Round Supported by ROJAM.COM〉でのことです。海中に沈めたマイクで拾った音のSEが消えると、イグニッション・キーを回したかのようにエンジン音が鳴り響きます。ステージ前方のスクリーンにシルエットを映し出しながら、背後から強烈な光を浴びたウツが歌い始めます。スクリーンが上昇すると、白い光に包まれながらウツは歌いますが、間奏に入るとステージは赤と青のダークな光に染まり、目の前の世界が一瞬で切り替わります。

それから10年以上が経ち、2013年のライブ〈TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation-〉のセット・リストに加わりました。ウツのボーカルが入らないバンド演奏のみだったものの、小室さんが主旋律をaccess Virus TI Polarで弾いたり(美しい音が響く)、Studiologic Sledgeの音を重ねたり(個人的には宇宙をイメージさせる)と、シンセサイザーの見本市のようなアレンジを楽しめました。「IGNITION, SEQUENCE, START」は何かと印象に残り、記憶に残る曲です。
2019.01.19
by mura-bito | 2019-01-19 17:26 | Music | Comments(0)
TM NETWORK「STILL LOVE HER」:歌はロンドンの記憶を切り取り、メロディは人々の記憶に残る
TM NETWORKのアルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』がリリースされたのが1988年12月。アルバムの最後を飾る「STILL LOVE HER ~失われた風景~」もまた、30周年を迎えました。

ベースから始まり、シンセサイザーが重なるイントロがとても温かい。小室さんが弾くピアノと、木根さんのアコースティック・ギター。ウツのボーカルを中心として重なり合う三人の歌声。メロディは優しく漂い、歌声はモノローグのようでもあり、語りかけるようでもあります。音と歌から滲み出る柔らかい雰囲気が心を和ませます。
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TM NETWORKの曲において、「STILL LOVE HER」は「GET WILD」に続く知名度を誇ると思います。ともに「シティーハンター」のエンディング・テーマとして使われたためです。曲名を耳にして、あるいはイントロやサビのメロディを聴いて「あの曲か」と思う人は、他のTM NETWORKの曲より多いのではないでしょうか。

多くのファン、そしてこの曲だけは知っているという人々の中でも「STILL LOVE HER」に抱くイメージはほとんど同じだと思います。優しい、穏やか、柔らかい。ライブの度にアレンジが変わるのがTM NETWORKの特徴ですが、オリジナルのアレンジを踏襲し続けている曲もあり、そのうちの一曲が「STILL LOVE HER」です。リミックスされてもいません。オリジナルの世界を今に伝え続ける曲です。

そうした曲であるためか、2000~2001年の〈TM NETWORK Tour Major Turn-Round Supported by ROJAM.COM〉では、「穏やかな日常」の空気を作り出す役割を担い、その後に演奏される30分超の大作「MAJOR TURN-ROUND」との落差を印象づけました。観客の意識に刻まれた「STILL LOVE HER」のイメージを利用し、表層から深層に潜り込むような「MAJOR TURN-ROUND」の世界に導きました。



TM NETWORK – STILL LOVE HER (Live from TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30 HUGE DATA)

「STILL LOVE HER」は2015年のライブ〈TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30 HUGE DATA〉でも演奏されました。このライブでは『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』の曲を抜粋してリメイクした組曲「CAROL2014」を中心に据えた構成だったこともあり、「STILL LOVE HER」もうまくハマりました。12弦アコースティック・ギターを弾いて、ハーモニカを吹き、コーラスを重ねる木根さんの姿を観ることができます。

「STILL LOVE HER」に欠かせない音といえば、やはり木根さんが吹くハーモニカでしょう。間奏で響くハーモニカの音は、冬の冷たい空気の中でも心地好い温かさを届けてくれます。ライブでは、間奏に入るとウツが木根さんを示し、流れるように木根さんがハーモニカを披露します。木根さんを照らすスポットライト、会場を包み込む柔らかい音色。
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歌詞には、アルバムを制作していたロンドンで目にしたであろう風景が登場します。もちろんただ風景を描写しているのではなく、その風景を眺める姿を通して「別れた恋人のことを思い出す」というテーマをもとに、ロンドンの風景を織り込みます。心ここにあらずの彼の横を「二階建てのバス」が通り過ぎたり、夜空に浮かぶ「12月の星座」から昔交わした会話を思い出したり。主人公の心とロンドンの街並みが交差する歌詞です。小室さんは「フィクションでもありノンフィクションでもあり」と語っています(『Keyboard magazine』1989年1月号)。

「GET WILD」をはじめとして変わり続けてきたTM NETWORKの一方で、「STILL LOVE HER」のように同じ姿を保ち続けてきたTM NETWORKが存在する。変わり続けることが宿命のようなグループですが、こうして変わらない要素に改めて触れると、変わらないことにもまた大きな価値があると思えました。30年前に吹き込まれた曲を聴きながら、「変わる」と「変わらない」のバランスについて考えています。

2018.12.19
by mura-bito | 2018-12-19 22:03 | Music | Comments(0)
TM NETWORK「A DAY IN THE GIRL’S LIFE/CAROL (CAROL’S THEME I)」:音は物語を綴り、物語は音を奏で、少女は世界を救う
最初の音が鳴った瞬間、イメージの中で世界は切り替わり始め、目の前でグラデーションを描きます。響く音、響く歌声が聴く人の手を取り、その向こうへと導く。黒く塗りつぶされた森の中に足を踏み入れ、奥へ奥へと歩みを進めると、やがて現実から切り離された意識は物語の世界に溶け込んでいきます。
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1988年12月、TM NETWORKのアルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』がリリースされました。「キャロル」という名の少女が異世界を旅する物語をつくり、その物語に関連する曲を中心にしたアルバムです。アルバムを軸にしたツアーではミュージカル風の演出が盛り込まれ、観客の目と耳を通して物語を描き出しました。僕はこのステージを生はもちろんのこと、映像でも観たことがありませんが、タイムマシンがあるのなら時間を巻き戻し、観客のひとりになってその世界に潜り込みたい。

アルバムの1曲目と2曲目に配置されているのが「A DAY IN THE GIRL’S LIFE ~永遠の一瞬~」「CAROL (CAROL’S THEME I)」です。前者のエンディングは後者のイントロにつながっており、ひとつの曲と考えることもできます。制作初期の構想では、物語に関わる曲をつなげて30~40分のトラックにしようとしていたそうですが(『Keyboard magazine』1988年9月号・1989年1月号)、このつながりはそのアイデアの名残りなのかもしれません。
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「CAROL」という物語をモチーフにして書かれた曲は全部で6曲あります。その制作は、小室さんが語るところによると「A DAY IN THE GIRL’S LIFE」から始まりました(『キーボード・ランド』1989年1月号)。アルバムの核であり、物語に関わる曲の源流といえるでしょう。「A DAY IN THE GIRL’S LIFE」の吸い込まれるようなイントロの音は、ただの空気の振動ではなく、物語の最初のページをめくる役割を担います。

『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』を制作する前に、小室さんは映画「ぼくらの七日間戦争」の劇伴を担当し、その後は音楽座ミュージカル「マドモアゼル・モーツァルト」や映画「天と地と」でも音楽を担当します。ステージや映像が先にあり、そこに音楽を加えていくという役割。物語を意識しながら音楽作品として世界を作り上げていくミュージシャンおよびプロデューサーとしての役割。ふたつの役割が交差しながら生み出されたのが『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』なのだろうと思います。



TM NETWORK – A DAY IN THE GIRL’S LIFE
(Live from TM NETWORK 30th 1984〜 QUIT 30 HUGE DATA)

「A DAY IN THE GIRL’S LIFE」も「CAROL (CAROL’S THEME I)」も、ウツの歌声が大きな魅力のひとつであることは間違いありません。その一方で、ストリーミング・サービスで配信されている『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』のインストゥルメンタルを聴くと、バックトラックの魅力をダイレクトに感じることができます。ふと思い立って聴いてみたのですが、それまで強く意識しなかった音が、これまでとは異なる響きをもって僕の中で鳴り始めました。

「A DAY IN THE GIRL’S LIFE」は、ボーカルの裏で鳴っているシンセサイザーやギターの音がとてもリリカルで美しい。歌メロとは異なる角度から響くメロディが胸を打ちます。その感動は、次の「CAROL (CAROL’S THEME I)」にも波及しました。ピアノ、ストリングス、ギターが奏でるメロディに心を揺さぶられます。驚くほど奥が深く、そして懐の深さ、包み込むような壮大さを感じるアレンジです。リアルタイムではないにせよ何度も聴いてきたアルバムであり、曲なのですが、感動に震える余地が充分にあったことに驚きます。
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『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』はロンドンで録音され、ドラムやパーカッションは海外のミュージシャンを起用し、Anne Dudleyが指揮したフル・オーケストラの音も加わりました。改めてオリジナルの音を聴くと、オーガニックな響きが印象に残ります。シンセサイザーの音すら丸みを帯びて、ロンドンに響く音と溶け合います。このアルバムを聴くたびに1988年のロンドンの空気が漂うかのようです。

2014年には「CAROL」関連の曲が新たにレコーディングされました。音も演奏も録音技術もスタジオも別物なので比較しようがないのですが、リメイクで印象が大きく変わったのはウツの歌声だということはいえると思います。歌声の存在感がより大きくなり、そしてより前に出ている。その痕跡は、2015年のコンサート〈TM NETWORK 30th 1984〜 QUIT 30 HUGE DATA〉におけるパフォーマンスに残されています。
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「A DAY IN THE GIRL’S LIFE」から「CAROL (CAROL’S THEME I)」へとつながるところは、オープニング・テーマの終了からそのまま物語が始まり、プロローグとして日常が描かれるイメージが浮かびます。ロンドンでいつもの生活を送る少女キャロル。彼女は少しずつ自分の周りの変化に気づき、その違和感はやがて大きく膨らみ、焦燥感となって彼女の背中を押します。そしてSOSにも聞こえる音に導かれ、その世界に飛び込んでいくのです。

2018.12.09
by mura-bito | 2018-12-09 09:30 | Comments(0)
TM NETWORK「RHYTHM RED BEAT BLACK」:交差する赤と黒の世界、交錯するロックとハウス
トーキング・モジュレーターで歪ませたギターが響くTM NETWORKの曲と言えば「RHYTHM RED BEAT BLACK」です。1990年にTMNとして最初にリリースしたアルバム『RHYTHM RED』に収録され、のちにシングル・カットされました。トーキング・モジュレーターとはキーボードやギターの音を「口で反響」させて変化を加えるエフェクターの一種です。
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「RHYTHM RED BEAT BLACK」の特徴は、メインのフレーズを繰り返すシンセサイザーとギターです。このループがとても気持ち良くて、ロックでありながら、ハウスでもある。そこにトーキング・モジュレーターを通した音やスクラッチ・ノイズを織り交ぜ、キックやベースが色気を醸します。音と音が艶っぽく絡み合い、ロックとハウスが交錯する。

1991年には、ボーカルとバックトラックを一新したリミックス “Version 2.0” を発表しました。歌詞はすべて英語になり、サウンドからはギターをなくし、オリジナルよりハウスの色を強めたアプローチといえます。さらに、1993年のリミックス・アルバム『CLASSIX 1』には “house sample foods mix” という名称のリミックスが収録されました。オリジナルのボーカルとサウンドを土台として、ラップのようなコーラス、金属的なシーケンサーの音を重ねて厚みを持たせています。



TM NETWORK – RHYTHM RED BEAT BLACK
(Live at Yokohama Arena in 2015)

基本的なカラーは共通するものの、ライブのたびに「RHYTHM RED BEAT BLACK」のアレンジは変化しました。YouTubeには、2015年のライブ〈TM NETWORK 30th FINAL〉の映像がアップロードされています。小室さんは三方に配置したソフト・シンセをリアルタイムでコントロールしながら、背後にセッティングしたRoland社のJD-XAを弾き、太くて厚い音を響かせます。サビ前のブリッジやアウトロで登場するJD-XAの音は、ギターと火花を散らしながら音の宴を彩ります。

ギターをメインで弾くのは「葛G」こと葛城哲哉ですが、「RHYTHM RED BEAT BLACK」といえば葛Gというくらい密接な関係にあります。この曲が演奏されたすべてのライブに参加し、トーキング・モジュレーターを駆使した演奏を披露しました。ノイジーな音で空気を震わせるそのパフォーマンスは、赤と黒が交わる世界に観客を引きずり込みます。

歌詞を書いたのは、1990年代のドラマを象徴する脚本家、坂元裕二です。装飾的な歌詞は現実感を歪ませて、フィクショナルな世界を描きます。『RHYTHM RED』を貫くテーマのひとつにデカダンス(退廃的)がありましたが、その要素を「RHYTHM RED BEAT BLACK」に強く感じます。煌びやかな言葉の連なりは音と絡み合って、聴き手を惑わせます。「光と闇が揺れる隙間」に潜り込み、終わらない夜の中で終わりに向けて進み続ける。どこにもたどり着かない閉塞感が漂います。華美な言葉を積み上げた先に待っているのは崩落か、夢見た世界か。

2018.10.16
by mura-bito | 2018-10-16 22:37 | Music | Comments(0)
TM NETWORK「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」:“存在感のある音” を追究するTMNスタイル、その始まりを告げたロック・パフォーマンス
1984年にデビューしたTM NETWORKは、1990年に名称をTMNと改めます。この改称を彼らは「リニューアル」と呼びました。グループ名を変えただけではなく、それまでに構築したTM NETWORKの音楽スタイルを解体し、新しいスタイルを立ち上げるという意思が込められています。リニューアルの少し前に、TM NETWORKの名義でリリースされたシングルが「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」です。
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1988年から1989年にかけて、TM NETWORKはプログレとミュージカルの要素を掛け合わせたシアトリカルなステージを展開しながら、同時にユーロビートへのシフトを見せました。これらの活動に区切りがつくと、TM NETWORKは最初の休眠期に入ります。1990年になって「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」をリリースしてTM NETWORKは覚醒し、TMNへのリニューアルを宣言すると、ハード・ロックに振り切ったシングル「TIME TO COUNT DOWN」とアルバム『RHYTHM RED』を発表しました。

「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」のアレンジはギターの音が際立つロック・スタイル。シンセサイザーの音も太くて厚みを増し、そして荒々しさを感じます。アルバム『RHYTHM RED』に収録されたバージョンでは雰囲気が変わり、ベースの音が際立ちます。アルバムの音は粘り気があって、絡みつく感じでしょうか。シングルの音からは「上昇する」イメージを抱き、一方でアルバムを聴くと「沈んでいく」イメージが浮かびます。ライブではアルバム・バージョンを基にしたアレンジで演奏されてきました。



TM NETWORK – THE POINT OF LOVERS’ NIGHT
(Live at Tokyo International Forum Hall A in 2014)

小室さんにとって「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」はどのような位置づけだったのか。それは1993年に刊行されたエッセイ集『告白は踊る』(角川書店)の250ページに記されています。「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」から「TMNの音は始まっている」と小室さんは語りました。シングルの名義はTM NETWORKでしたが、実質的にTMNのファースト・シングルであり、この後にリリースされた曲のサウンドを予告する役割を担います。続けて「その時点からTM NETWORKとは多少なりとも違った独自性を持ったと意識している」と述べており、この曲はターニング・ポイントともいうべき重要な意味を持ちました。

1989年までのTM NETWORKの活動で追究してきたシンセサイザー・ミュージックやファンタジックでシアトリカルなステージ演出から離れ、TMNはよりリアルなイメージの表出、バンドの音を表現するようになりました。TMNとしてリリースしたアルバム『RHYTHM RED』はロック、『EXPO』はハウスといったようにジャンルは異なりますが、体温の高い、生々しいサウンドやステージ演出が共通しています。『告白は踊る』のページを再び繰ると、「(前略)“存在感のある音” を強く意識し始めた。それはある種の重さであり、意義でもある」という一節が目に留まります。その意識が形になった最初の曲が「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」なのです。
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節目に生まれた曲だからか、その後の10周年、20周年という節目のライブのセット・リストに名を連ねます。そして2014年に敢行されたライブ・ツアー「TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30」でも披露されました。久しぶりに「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」を生で聴きましたが、音も歌も色気に満ちて、ぐっと深みを増していると感じました。リズムが身体に染み込んでくる感じが心地好くて、ずっと聴いていたいと思わせるパフォーマンスでした。YouTubeにアップロードされている公式の映像はこのライブだけです。スリルでマッドな音を体験するにイントロからアウトロまでフルで観てほしいと思いますが、公開されている範囲だけでも曲の魅力を味わうには充分でしょう。その世界に絡め取られて、沈んでいきます。

2018.09.26
by mura-bito | 2018-09-26 21:57 | Music | Comments(0)
TMN EXPO/CLASSIX PLAYLIST
TM NETWORKがTMNという名義で活動していた時期のアルバムから12曲をピックアップし、プレイリストをつくって聴いています。1991年には『EXPO』、1993年には『CLASSIX 1』と『CLASSIX 2』の2枚がリリースされました。『EXPO』はハウス・ミュージックを中心に、ロック、フォーク、ラテン・ミュージック、プログレなどを含む雑食性の高いアルバムです。『CLASSIX』は当時のテクノ・サウンドでリミックスした曲を多く収録したリミックス・アルバムです。
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この時期のTM NETWORKの音はロックからハウス・ミュージックへ移り、そしてテクノ・スタイルへの傾倒を見せます。先述のアルバムには、こうしたジャンル以外の曲も入っていますが、ロック、ハウス、テクノを標榜した音で括ってみます。深く考えずに曲を選んでプレイリストに加えていくと、各ジャンルの曲数が4曲になっていました。直感で選んだ割には意外とバランスがいい。

ハウス系は「WE LOVE THE EARTH」、「JUST LIKE PARADISE」、「RHYTHM RED BEAT BLACK」、「あの夏を忘れない」。ロック系は「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」、「69/99」、「TOMORROW MADE NEW」、「JUST ONE VICTORY」。そしてテクノ系は「DIVE INTO YOUR BODY」、「U.K. PASSENGER」、「WILD HEAVEN」、「HUMAN SYSTEM」です。

TMN EXPO/CLASSIX PLAYLIST

WE LOVE THE EARTH -Ooh, Ah, Ah, Mix-
JUST LIKE PARADISE -expo overdub mix-
RHYTHM RED BEAT BLACK -house sample foods mix-
DIVE INTO YOUR BODY -extended 12' version mix-
THE POINT OF LOVERS’ NIGHT -rhythm red version-
69/99 -rhythm red version-
U.K. PASSENGER -u.k. lap techno mix-
WILD HEAVEN -extended hard core mix-
TOMORROW MADE NEW
あの夏を忘れない
HUMAN SYSTEM -café de paris mix-
JUST ONE VICTORY -single 7' version-

「WE LOVE THE EARTH」はシングルとアルバムで雰囲気が大きく変わります。ここで選んだのはアルバム・ミックスです。というかこのミックスを起点にして、この時期の音でまとめられそうな曲を組み合わせてこのプレイリストを作成しました。次にピックアップしたのが「RHYTHM RED BEAT BLACK」です。もともとトーキング・モジュレーターやスクラッチを盛り込んだハウス系トラックでしたが、このリミックスで派手な音が加わって、より熱く、クールな曲になりました。この2曲をつなぐのが「JUST LIKE PARADISE」のリミックスです。最初はオリジナル・ミックスを置いてみたものの、この2曲をつなぐためには音に厚みのあるリミックスの方がフィットしました。

「DIVE INTO YOUR BODY」のリミックスは『CLASSIX 1』におけるテクノ化を象徴する曲です。固い感じのシーケンサーと、今でいうならボーカロイドのようなサンプリング・ボイスを短く刻んで重ねているのが特徴的ですね。オリジナルと同時期に制作された「DIVE INTO YOUR BODY -12'' Club Mix-」(ベースの印象を強くしたり間奏を長くしたりしたリミックス)を下敷きにしつつ、1993年の音を被せています。

「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」「69/99」は『CLASSIX』に収録されたバージョンですが、これらはリミックスではなく、オリジナル・アルバム『RHYTHM RED』に収録されたものの音圧を上げた感じです。プレイリストをハウスとテクノでまとめると単調になったので、ロックの要素を注入したら、ぎゅっと締まりました。同じアルバムに収録されていいるもののタイプの異なる2曲を、こうして並べてみるとTMロック・スタイルの振れ幅を楽しむことができます。ちなみに「THE POINT OF LOVERS’ NIGHT」は、まっちゃん(松本孝弘)が好きと言っていた曲です。彼がサポートを続けていて、この曲でも弾いていたらどのような雰囲気になったのか興味があります。
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「U.K. PASSENGER」はオリジナルのアウトロでカットされていた部分をフィーチャーして、分厚いベースとテクノ系のシーケンサーを重ねたものです。ファンクを感じるホーン・サウンドとエレクトロニック・サウンドが混ざり合います。ラップを入れているのは後にmassive attackを結成するメンバーです。オリジナルが録音されたのは1986年ですが、スタッフが六本木で会って意気投合した彼らをレコーディングに呼んだそうですが、当時らしいというべきか、とんでもないエピソードです。

「WILD HEAVEN」のリミックスでは『CLASSIX 2』で最もテクノに寄った音を聴くことができます。もっといえば、『CLASSIX』という企画においてテクノの要素が最も強く反映されています。その最大の特徴は、8分半のうち3分半に及ぶアウトロですね。別のインストゥルメンタルをつなげているようなものです。この部分に、小室さんがやりたかったテクノを感じます。ここで聴けるシンセサイザーのリフは、この後もよく耳にした気がします。

「TOMORROW MADE NEW」と「あの夏を忘れない」はアルバム『EXPO』の曲です。「TOMORROW MADE NEW」は、ハード・ロックを標榜した前作のツアーで披露され、アレンジを変えて『EXPO』で録音されました。オルガンの響きが1970年代ロックの匂いを漂わせます。「あの夏を忘れない」には『CLASSIX』に収録されたリミックスもありますが、リズムを抜いたり音数を減らしたりしているので、バランスとしてオリジナルの方が合うと思いました。オリジナルの厚すぎないハウス・サウンドや哀愁漂うギターが、ロックとテクノをつなぐこの位置にフィットするのです。

ミディアム・テンポの「HUMAN SYSTEM」は、オリジナルにはバンド演奏ならではの柔らかさがありました。リミックスで差し替えられたリズムは分厚い、とても分厚い。音の厚みとメロディの柔らかさが対照的ですね。スポットライトを浴びたサックスのソロも叙情的に響きます。このリズムの雰囲気はそれから20年後のコンサート(2013年の「TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation-」)でも踏襲されました。キックの音が太く厚いほど、そこに乗るボーカルやシンセサイザーのメロディが胸に沁みます。

プレイリストを締め括るのは「JUST ONE VICTORY」の1993年バージョンです。アルバムからシングル・カットされた1989年バージョンを下敷きにしており、音の密度がさらに大きく感じられるのが特徴です。スネアが身体に響いてきて、ロックの熱を感じます。アウトロがフェイド・アウトしない点が、この位置に配置した理由です。もともと組曲の最後を飾っていた曲なので締め括りとしては最適なのですが、こうして音だけで構成したプレイリストでも最後をぎゅっと締めてくれますね。ステージが光に包まれて、幕が下ろされるイメージが浮かびます。
2018.06.27
by mura-bito | 2018-06-27 22:50 | Music | Comments(0)
T.UTU with The BAND「GET WILD PANDEMIC」:ロック・スターが放つ色気、バンドが生み出すヘビーなアンサンブル
T.UTU with The BANDが演奏する「GET WILD PANDEMIC」は、2017年10月25日から配信されています。先日、YouTubeでミュージック・ビデオの一部が公開され始めました。T.UTU with The BANDによるライブ(というか開演前にステージを使って撮影されたであろう映像)をもとに、“pandemic” を表現する要素(ウイルスが増殖する感じ)が加えられています。
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スタンドマイクを操って歌うウツの姿は、紛れもなくロック・スターです。25年前にソロ活動を始めた頃のコンセプトは「1970年代ロック」であり、ジャケットや映像で漂わせる色気は相当なものがありました(きっと大勢のファンが悶絶した)。「GET WILD PANDEMIC」で放つ色気は、当時に勝るとも劣りません。かつてウツの憧れの対象はRod Stewartだったと思いますが、こうして年齢を重ね、音楽を続けてきたことで、本当に近づいている気がします。



T.UTU with The BAND – GET WILD PANDEMIC

TM NETWORKでは、「GET WILD」は代表曲でありながら(代表曲だからこそ)素材として扱われることが多く、ライブやリミックスで新たな姿を見せてきました。解体と再構築が運命づけられた曲ですね。TM NETWORKでもロックに寄ることがありましたが、ウツと小室さんとでは、解釈のベクトルあるいは次元が違っているのがおもしろいですね。ここまでブルージーな演奏で表現できるのは、やはりウツならではであり、このバンドだからこそと言えるでしょう。

バンドのメンバーは土橋安騎夫(Keyboards)、山田亘(Drums)、葛城哲哉(Guitar)、是永巧一(Guitar)、種子田健(Bass)です。歴戦のロック・ミュージシャンが演奏する「GET WILD PANDEMIC」を聴いたとき、とにかく音が太くて格好良いと思いました。しみじみと「ロックにおける音の太さ・厚みというのはこういうことだよな」と思います。ツイン・ギターを筆頭にしたヘビーな音の塊が中毒症状をもたらします。
2018.03.13
by mura-bito | 2018-03-13 19:53 | Music | Comments(0)
[PART3] TM NETWORK「MAJOR TURN-ROUND」:32分21秒の音楽体験、過去と現在と未来の交錯、刷新される音の記憶
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FIRST IMPRESSIONの音がカット・アウトすると、間を置かずにSECOND IMPRESSIONのドアが開き、そこから響いてくるメロトロンの音が聴き手を招き入れます。緩やかなテンポで「MAJOR TURN-ROUND」の中で最も重厚なバンド演奏が繰り広げられます。音の塊はやがて小さくなっていき、荒れた水面から波がすっと引くような、静かな雰囲気の音になります。小室さんが弾くピアノが静謐な響きを紡ぎ、木根さんが爪弾くアコースティック・ギターは過去の記憶を探して彷徨います。そしてバンドの音が戻り、「MAJOR TURN-ROUND」の中で最もスリリングな演奏が始まります。途中まではピアノとベースとドラムのトリオ演奏です。それぞれのスタイルを存分に見せつけながら音が展開していき、やがてギターの音が重なります。

「MAJOR TURN-ROUND」のリズムを構築するのは、Simon PhillipsとCarmine Rojasです。Simon Phillipsのドラムは、CDとは思えないほどの迫力を感じさせます。僕は彼のプレイを上原ひろみのコンサートで聴いたことがありますが、実際に生で体験できる喜びと、期待を遥かに上回る格好良さに震えたのを覚えています。一方、Carmine Rojasは、David Bowieのツアーでバンドを統率したこともあるベーシストです。「MAJOR TURN-ROUND」は多くの音が交錯する曲ですが、ベースの音が全体を包み込んでいるのではないかと思うほど、ずしりと重く、厚い音で存在感を示しています。

ドラムとベースに支えられ、小室さんのピアノが走ります。このソロはKeith Jarrettを意識したと、後に小室さんは語りました。小室さんとプログレを結びつける人物として最初に挙がるのはKeith Emersonでしょうが、実はジャズ・ピアニストのKeith Jarrettをイメージしたという話には驚きました。その後も、自身のソロ作品でもKeith Jarrettについて言及する場面がありました。とはいえ、特にピアノの演奏スタイルについては、むしろRick Wakemanの影響の方が大きいのではないかと思います。Rick Wakemanが参加したYesの大作「Close to the Edge」やソロ・アルバム『The Six Wives of Henry VIII』を聴いていると、そう感じます。
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最後のパートであるTHIRD IMPRESSIONが始まると、音は少し明るめに響き、ポップな色に染まります。THIRD IMPRESSIONの前半で聴ける音は、ハウスというべきか、あるいは小室さんが傾倒していたトランスというべきか、プログレでは使われないであろうダンス・ミュージックのループ・サウンドです。そうした音が呼び込んだのかもしれませんが、歌詞はこれまでのパートより前向きなものになります。FIRST IMPRESSIONを現在、SECOND IMPRESSIONを過去とするなら、THIRD IMPRESSIONは未来に向かっていく音や言葉を発しています。

音は目まぐるしく、ダイナミックに展開します。地を這うようなベースとキックが鳴り終わると、曲はがらりと雰囲気を変えます。葛城哲哉が弾くギターの音は哀愁の色を帯び、音が紡がれるたびにその色は濃くなります。他のパートでも印象的なギターを披露していますが、THIRD IMPRESSIONでは心をぐっとつかむ音を鳴らしています。バンドの演奏を背にして、ウツの歌もエモーショナルに曲を彩ります。

メロトロンが鳴り響き、終着点に向かう曲を導きます。過去に吹き込まれた音が時間を越えて呼び戻され、空気を震わせます。録音されたものを聴く限りでは、他の音とのバランスを取っているのか、メロトロンは後ろの方に位置しています。ライブでは、小室さんが弾くメロトロンはストリングスとコーラスを鳴らし、前に前に出てきて、ベースやドラム、ギターを率いて壮大な雰囲気を醸しながらクライマックスを迎えます。32分という長大な曲の幕が閉じると、記憶のあちこちに音が残っているのが分かります。その欠片を拾い集めようとして最初から「MAJOR TURN-ROUND」を聴くと、音の記憶は刷新されていくのです。
2017.12.07
by mura-bito | 2017-12-07 21:02 | Music | Comments(0)
[PART2] TM NETWORK「MAJOR TURN-ROUND」:重なる三つの「印象」を通り抜けながら体験する音の世界と記憶の揺らぎ
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「MAJOR TURN-ROUND」の収録時間は32分を超えます。いわゆる組曲の形式ですが、全体は3つのパートに分かれており、それぞれFIRST IMPRESSION、SECOND IMPRESSION、THIRD IMPRESSIONと名付けられています。この構成と命名は、Emerson, Lake & Palmerのアルバム『Brain Salad Surgery』に収録された「Karn Evil 9」の構成(1st Impression~3rd Impression)に沿っている…というより、そのままですね。

「Karn Evil 9」での意味合いは分かりませんが、「MAJOR TURN-ROUND」で各パートの名称にIMPRESSIONという言葉を採用したのは、この曲がテーマとして持っている要素のひとつが「記憶」だからだと思います(あるいはIMPRESSIONから「記憶」というテーマが生まれたのかもしれませんが)。impressionという語は印象・感銘という意味ですが、これは「心に残る痕跡」とでもいうべき現象です。心に刻み込まれて残り続けるもの、それは記憶と呼ぶこともできるのではないでしょうか。例えば、FIRST IMPRESSIONは「第一印象」というより、無数に存在して眠っている記憶の中で最初にアクセスする記憶のことなのではないか。

音を変えて多くの言葉を散りばめることで、「MAJOR TURN-ROUND」は「記憶とは何か?」というテーマにアプローチします。小室さんがこの曲について「最後の方になると、最初の部分がどのようなものだったのか記憶は曖昧になる」と語ったように、人間の記憶はそこまで強固なものではなく、時間とともに薄れていくものです。メディアに記録された音は揺るがないものですが、それを聴く人間の記憶はファジーであり、揺るがないはずの音は記憶の中で揺らぎます。記憶の揺らぎをひとつの曲の中で体験することで、誰もが知っている「記憶は揺らぐもの」という事実が身体的に刻み込まれます。
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「MAJOR TURN-ROUND」の開幕を告げるのは、壊れた換気扇が鳴らす乾いた音です。水面に落ちた墨がじわりと広がっていくようにベースとドラムが音の世界の輪郭をゆっくりと描き、シンセサイザーの音が聴き手をFIRST IMPRESSIONの中に取り込んでいきます。僕らの意識は音もなく音の中に沈んでいきます。さまざまな音が重なり、交錯します。チューブラー・ベルズの乾いた金属音が響き、ギターがテーマ・メロディを運んできます。音の世界は、ウツの歌声によって立体的に立ち上がり、小室みつ子さんの書いた歌詞によって陰影が生まれます。

曲は表情を次々と変えます。FIRST IMPRESSIONの中でもパート分けができるくらいに、浮き沈みの激しいダイナミックな展開を見せます。展開が徐々に切り替わるのではなく、急上昇や急転直下で音がいきなり変わるのが特徴です。途中で「オペラ座の怪人」を彷彿とさせるメロディが顔を覗かせ、不穏な雰囲気を醸しますが、その前の演奏が力強いために闇は一層濃く目に映ります。音の変わりようから、太陽が月に呑み込まれる日蝕のイメージが浮かびました。メロトロンに記録されたストリングスの音がメランコリックに空気を震わせます。

FIRST IMPRESSIONの終盤になると、それまで溜め込んだエネルギーを発散しながら、音が音を巻き込み、曲は勢いを増していきます。アスファルトにタイヤを切りつけながら走る車のように、ぐいぐいとスピードを上げて駆け抜けていく。スネアやハイハットの音が鋭く大きく力強く響き、他の楽器を煽ります。また、ライブで顕著だったのですが、この部分ではハモンドの音が強烈な存在感を示しており、荒々しいロック・オルガンが曲を強靭なものにしています。音が交差して主張し合う中で、ウツのボーカルはノイズと混ざり合いながら、異なる空間からのメッセージのように響きます。
2017.12.06
by mura-bito | 2017-12-06 21:31 | Music | Comments(0)

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