inthecube
音楽と物語に関する文章を書いています。
ワイルドじゃなくてもいいからタフになりたい
OUR WORLD IS EXPRESSED BY IMPRESSIVE WORDS

2020-08-16 on PIA LIVE STREAM/LINE LIVE-VIEWING
藍井エイルは8月16日を「エイルの日」といっています。2018年に復帰後初めての武道館公演、昨年にはファンクラブ向けのライブが行なわれた日です。今年もイベントが実施される予定だったと思いますが、全国ツアーの延期・中止を受けて、観客を入れずにステージを配信するライブに切り換わりました。〈Eir Aoi LIVE TOUR 2020 “I will...” ~have hope~〉と題したライブは、全国ツアーと同じセット・リストが組まれ、その様子はPIA LIVE STREAMとLINE LIVE-VIEWINGで配信されました。
もちろん会場で音を浴びるのがベストではありますが、それが難しい今、どうやってライブを楽しむか。僕は配信を意識したミックス(ステージから出る音のバランス)に注目しています。今回のライブをヘッドフォンで聴いていて、最初から最後までずっと音の良さに感動しました。エイルのさまざまなボーカル表現、エイルバンドのメンバー各人のテクニカルな演奏、バンドとして束になったサウンドが同時に楽しめる。ひとつひとつの層の特徴も、層全体の厚みもよく見えるといった感じでしょうか。
藍井エイル – I will...
ライブの幕を開けたのは、数日前にリリースされた「I will...」です。静謐なピアノの演奏から始まり、壮大に展開していくこの曲が、ストリーミングの中の世界を一気に音楽空間に仕立て上げます。エイルはリリースに合わせて音楽番組に出演し、歌を披露してきましたが、ライブで歌う、そしてバンドの音で歌うのはこの日が初めて。歌も演奏も力強くて、もう何年も、何度も披露している曲のように思えました。「I will...」を筆頭に、ボーカルにライブ感も安定感もあったことが素晴らしく、歌声のさまざまな表情が見えました。
続く「月を追う真夜中」はビートが気持ちよい曲であり、ライブで聴くたびに身体に染み込ませるように聴いています。そのビートを生み出すドラマーが楠瀬拓哉です。作曲およびアレンジを担当した重永亮介が弾くピアノの音もリズミカルに重なります。身体が跳ねる感じというか、身体を疼かせる音の奔流が心地好い。エイルも楽しそうに歌っているのが印象的でした。
月を追う真夜中
エイルの衣装は赤と黒。青を基調とすることが多いなか、赤が強調された衣装で歌う姿は新鮮です。そのカラー・コーディネートが特に映えたのが「アカツキ」です。2016年と2018年のライブに続き、僕がライブで聴くのはこれで三度目です。歌も音も叙情的なエモ系ロックの筆頭であり、ライブを重ねるごとに曲の持つ切なさが増して響きます。明滅する赤い光が歌声を吞み込もうとし、しかしそれを食い破るように歌声は存在感を増して響きます。バンドの音も熱を帯びるなか、とりわけ土屋浩一が披露したギター・ソロが印象に残りました。
バラードの「青の世界」。初めてライブで聴いたときに、森閑とした会場を満たす歌声に驚き、感動したものです。ステージから離れた観客席にも、その美しさが減衰することなく届く。歌声に「触れている」ような感覚で聴いていました。そして、配信であっても、その「触れている」感覚は健在でした。海の底の深い深い青から、クリアに広がる空の鮮やかな青まで。ひそやかだった雰囲気が、明るくキラキラした雰囲気に変わっていき、そして再び穏やかな空気に包まれます。一日の中、巡る季節の中、さまざまな青が取り巻く世界が、ひとつの曲に凝縮されています。
アカツキ
ファンキーな新井弘毅のギターで始まるエイルバンド・セッション。短い時間ながら、それぞれの技術や魅せる演奏が詰め込まれています。そしてセッションの熱が残るなか、華やかな空気をまとって「Raspberry Moon」が披露されます。ベースを弾く黒須克彦が書き、アレンジした曲です。ジャズを意識したこの曲をライブで聴いてみたいという願いが叶いました。エイルは黒いケープコートに黒いハットで登場し、視覚的演出で曲を盛り上げます(そしてハットは間奏で宙に舞う)。ボーカルも意識的に他の曲と変えており、曲線的で艶っぽく響きます。ジャズの色気とロックの荒々しさがせめぎ合いながら、他の曲にはない魅力を放っていて、期待を超える感動が得られました。
「画面越しとか関係なく煽るからね」といって歌い出した「IGNITE」、続く「シリウス」で締めくくると、ステージは暗転し、スクリーンに「アンリアル トリップ」と「I will...」のミュージック・ビデオが流れます。それらが終わると、ステージにエイルが戻ってきて、「負けないで」を歌います。外出制限がかかっていた時期に、YouTubeにアップされたカバー曲のひとつです。エイルはアコースティック・ギターを弾きながら歌い、それを重永亮介のピアノが支えます。そして、他のメンバーもステージに戻り、「INNOCENCE」と「レイニーデイ」を披露して、ライブが終わります。いつかまた観客で埋め尽くされた会場でライブができることを願い、2020年の「エイルの日」のライブは幕を下ろしました。
2020.08.23
#
by mura-bito
| 2020-08-23 10:50
| Music
ORESAMAによる「Dressup cover」企画の第2弾、「綺麗なものばかり -Dressup cover-」がYouTubeで配信されています。オリジナルは2016年からライブで演奏されており、ORESAMAとH△Gの曲をまとめた企画盤に収録されました。再デビュー後のオリジナル・アルバム『Hi-Fi POPS』で聴くこともできます。

「綺麗なものばかり -Dressup cover-」を聴いたとき、そのアレンジに明るい印象を受けました。真夏の太陽というよりは秋晴れのようなイメージが浮かびます。絡み合う音は、聴き手に届くとするりとほどけ、すっと心に届く。ファンクやエレクトロの持つ親しみやすさを前面に押し出したという感じでしょうか。聴き手との距離が近くて、共有する時間が心地好いアレンジです。
ORESAMA – 綺麗なものばかり -Dressup cover-
ボーカルのぽんのnoteには、「綺麗なものばかり」に関するテキストが残っています。この曲を2016年のイベントで歌ったとき、彼女は自身のコンプレックスや曲に込めた気持ちを書き記し、以下の文章で締め括りました。
自らの中に抱える二面性、矛盾するものを吐露した文章です。彼女は2018年のインタビューでも「わたしは普段内気というか、人前に出ていくタイプではない」と語りましたが、ステージに立ってスポットライトを浴び、歌い、観客を沸かせる姿を見ているのでとても意外です。noteに綴った心の揺れ動きは、ずっと抱えてきて、おそらくは今も抱えているのだろうと思います。
だからこそ…というのも変ですが、それもまたORESAMAの音楽を構成する要素なのではないでしょうか。Dressup coverで艶めいて響くぽんの歌声を聴いていると、奥に潜んだ心の一部が仄見える気がします。
2020.08.19

ORESAMA – 綺麗なものばかり -Dressup cover-
ボーカルのぽんのnoteには、「綺麗なものばかり」に関するテキストが残っています。この曲を2016年のイベントで歌ったとき、彼女は自身のコンプレックスや曲に込めた気持ちを書き記し、以下の文章で締め括りました。
明るくて、楽しくて、かわいい曲が好き。
それをうたうのも好き。
だけど、本当のわたしは多分正反対。
だからこそ、自分にないものをくれるポップミュージックが、わたしは大好き。
日常を忘れて、楽しい時間をみんなで一緒にすごせる時間が、とても幸せ。
ぽん
note – 『綺麗なものばかり』のこと。
自らの中に抱える二面性、矛盾するものを吐露した文章です。彼女は2018年のインタビューでも「わたしは普段内気というか、人前に出ていくタイプではない」と語りましたが、ステージに立ってスポットライトを浴び、歌い、観客を沸かせる姿を見ているのでとても意外です。noteに綴った心の揺れ動きは、ずっと抱えてきて、おそらくは今も抱えているのだろうと思います。
だからこそ…というのも変ですが、それもまたORESAMAの音楽を構成する要素なのではないでしょうか。Dressup coverで艶めいて響くぽんの歌声を聴いていると、奥に潜んだ心の一部が仄見える気がします。
2020.08.19
#
by mura-bito
| 2020-08-19 21:48
| Music
藍井エイルのシングル「I will...」がリリースされました。先行して配信された表題曲のほか、「アンリアル トリップ」、「MY JUDGEMENT」という曲が収録されています。一枚に詰め込まれた三つの世界。それぞれが独自の世界を築いています。ジャンルの異なるショート・フィルムを立て続けに観ているかのようです。

「I will...」は、ひとつの曲のなかにドラマが凝縮されています。表情を変える歌声、ダイナミックに起伏するサウンド。歌メロの美しさは筆舌に尽くし難く、後半に登場する ♪足りなくて 足りるはずないけれど♪ の部分が特に好きです。曲を書いたのはTAMATE BOXとSakuの二人です。彼らが参加した藍井エイルの曲はどれも素晴らしく、これまで何度も感動を覚えました。
Sakuは「I will...」のアレンジも担当しています。多くの音がきれいに束ねられ、アコースティック・ギターやピアノ、ストリングスといったクリアな音のレイヤーが心地好い。さらに、インストゥルメンタルでは音の重なりに直接触れることができて、歌が入っているときとは異なる印象を受けます。2番のAメロの前半に重ねられたギターのフレーズや、続くBメロの前半で響くフルートっぽい音もとても好きです。
藍井エイル – I will...
音が鳴り出した瞬間から曲を染めるエレクトロ・スタイルのベースとキック。「アンリアル トリップ」では、ボーカルが曲のパーツとなり、ある意味では脇役として、エレクトロニック・サウンドの盛り上がりをサポートします。歌が前衛にも後衛にもシフトする感じは歌モノEDMの特徴であり、いつものシンガーとバンドによる演奏というスタイルから離れていて、とても新鮮です。
「アンリアル トリップ」はケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)とのコラボレーションで生まれました。藍井エイルが発表した曲のなかで、ロックにEDMを絡ませたものはいくつかありましたが、ここまでロックの色を薄め、EDMに寄せたアレンジは初めてではないでしょうか。縦横に張り巡らされたエレクトロニック・サウンドがとても気持ちよくて、リリース前に公開されたミュージック・ビデオを観たとき、すぐに気に入りました。
藍井エイル – アンリアル トリップ
3曲目に収録されている新曲は「MY JUDGEMENT」です。エイルバンドのギタリストのひとり、ヒロキングこと新井弘毅が詞曲を書いてアレンジし、ギターの演奏はもちろん、ドラムやベースのプログラミングも担当しています。ギターをはじめとする音を聴いて、僕は滝をイメージしました。大量の水が落ちて水面を叩く、あの迫力ある光景。個人的にはオルタナの雰囲気を感じます。
ヒロキング曰く、「凶暴な藍井エイル様がどんな感じか知りたくなりまして」。そして生まれた「MY JUDGEMENT」。挑発的にも聞こえる攻撃的なボーカルに加えて、途中で聞こえるスクリームが新しい領域に踏み込んだ印象を与えます。散らばったガラスの破片をさらに砕くような、静穏や柔和といったものをかき乱す危うさや鋭さが漂い、そのスリリングな魅力に引き込まれます。
2020.08.16

Sakuは「I will...」のアレンジも担当しています。多くの音がきれいに束ねられ、アコースティック・ギターやピアノ、ストリングスといったクリアな音のレイヤーが心地好い。さらに、インストゥルメンタルでは音の重なりに直接触れることができて、歌が入っているときとは異なる印象を受けます。2番のAメロの前半に重ねられたギターのフレーズや、続くBメロの前半で響くフルートっぽい音もとても好きです。
藍井エイル – I will...
音が鳴り出した瞬間から曲を染めるエレクトロ・スタイルのベースとキック。「アンリアル トリップ」では、ボーカルが曲のパーツとなり、ある意味では脇役として、エレクトロニック・サウンドの盛り上がりをサポートします。歌が前衛にも後衛にもシフトする感じは歌モノEDMの特徴であり、いつものシンガーとバンドによる演奏というスタイルから離れていて、とても新鮮です。
「アンリアル トリップ」はケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)とのコラボレーションで生まれました。藍井エイルが発表した曲のなかで、ロックにEDMを絡ませたものはいくつかありましたが、ここまでロックの色を薄め、EDMに寄せたアレンジは初めてではないでしょうか。縦横に張り巡らされたエレクトロニック・サウンドがとても気持ちよくて、リリース前に公開されたミュージック・ビデオを観たとき、すぐに気に入りました。
藍井エイル – アンリアル トリップ
3曲目に収録されている新曲は「MY JUDGEMENT」です。エイルバンドのギタリストのひとり、ヒロキングこと新井弘毅が詞曲を書いてアレンジし、ギターの演奏はもちろん、ドラムやベースのプログラミングも担当しています。ギターをはじめとする音を聴いて、僕は滝をイメージしました。大量の水が落ちて水面を叩く、あの迫力ある光景。個人的にはオルタナの雰囲気を感じます。
ヒロキング曰く、「凶暴な藍井エイル様がどんな感じか知りたくなりまして」。そして生まれた「MY JUDGEMENT」。挑発的にも聞こえる攻撃的なボーカルに加えて、途中で聞こえるスクリームが新しい領域に踏み込んだ印象を与えます。散らばったガラスの破片をさらに砕くような、静穏や柔和といったものをかき乱す危うさや鋭さが漂い、そのスリリングな魅力に引き込まれます。
2020.08.16
#
by mura-bito
| 2020-08-16 09:47
| Music
2010年9月、LINKIN PARKの4枚目のアルバム『A Thousand Suns』がリリースされました。翌2011年にはワールド・ツアーの一環として来日し、僕もそれを観る機会に恵まれました。本作を軸にしたセット・リストを組み、素晴らしいパフォーマンスを披露してくれました。
リリースから経過した時間は10年。その間にアルバムを聴きなおす機会は何度もありましたが、最近になって何度目かの再会を果たし、これまでよりも長く、そして深く聴き込みました。波長が合ったというべきか、聴くべきときが今訪れたのだと思います。当時から感じていたことや、そのときは見過ごしてしまったものを、今の言葉で記録してみます。

10年前、アルバムのなかで最も好きな曲になったのが、パーカッシブなドラミングが身体を疼かせる「When They Come For Me」です。それまでのLINKIN PARKにはなかったリズムなので、初めて聴いたときは驚きましたが、すぐに驚きが興奮に変わりました。重厚でありながら踊りたくなる音は、ロック、エレクトロ、ジャズのどれとも異なる興奮をもたらします。
イメージとして浮かんだのは、太鼓の音が鳴り響くプリミティブな儀式です。そこに雄叫びや咆哮を思わせるコーラスが重なるので、本当に何かを祀る儀式に思えてきます。音に絡みつくMike Shinodaのラップは、天あるいは大地に向かって捧げる呪術的な言葉のようです。
LINKIN PARK – When They Come For Me
アルバムを構成する15曲のうち、ボーカルやラップが入っている曲は6割です。それ以外の曲はインタールードとして歌モノをつなぐように組み込まれています。いくつかの曲では先人の声がサンプリングされていて、話の内容や声のトーン、当時の社会情勢などが相俟って、メッセージ性が色濃く出ています。
たとえば、「The Radiance」にはRobert Oppenheimerのインタビューが使われており、彼の “Now, I am become death, the destroyer of worlds.” という言葉が傷跡のように、印象に残ります。また、「Wisdom, Justice, And Love」に重ねられているのはMartin Luther King, Jr.の演説 “Beyond Vietnam: A Time To Break Silence” です。曲名はこの演説の一節からとられています。
LINKIN PARK – Jornada Del Muerto
「Jornada Del Muerto」ではMikeが「持ち上げて」と「解き放して」という日本語をポエトリー・リーディングで繰り返します。それらは、アルバムのリード・シングル「The Catalyst」の歌詞に使われている “Lift me up” と “Let me go” の和訳です。日本のファンへのサービスにも思えましたが、しかしながらアメリカと日本にルーツを持つMikeが発することで、ただのマテリアルではなく、複雑な意味を持つ言葉に聞こえます。
「The Radiance」でOppenheimerの声をサンプリングし、「Jornada Del Muerto」で日本語を吹き込み、そして別の曲には「Fallout」というタイトルをつける。それらの事実を想像力の糸でつなぐべきなのか、それとももっと大きな枠組みで捉え、別の意味を見出すべきでしょうか。『A Thousand Suns』は、もちろんシンプルに聴くこともできますが、海の底に潜るように深く聴き込むと別の世界が浮かび上がってきます。
LINKIN PARK – The Messenger
終盤に盛り上がる「The Catalyst」の後を受けて、アルバムを締め括る曲が「The Messenger」です。穏やかに響くアコースティック・ギターとピアノを背にしてChester Benningtonが歌います。「The Catalyst」との落差も相俟って、アコースティック・サウンドの心地好さを存分に味わえます。
声を振り絞るように歌うChesterが目に浮かびます。それは言葉を運び、メロディを運び、音楽を届ける人の姿です。けれども、たとえば “When life leaves us blind”、“Love keeps us kind” という言葉は、Chesterの個人的なメッセージにも思えます。自分の大事な人々に向けて言葉を届ける、ひとりの人間の背中が見えます。静かな音の中で強く優しい歌声が響き、『A Thousand Suns』が終わります。
2020.08.10
リリースから経過した時間は10年。その間にアルバムを聴きなおす機会は何度もありましたが、最近になって何度目かの再会を果たし、これまでよりも長く、そして深く聴き込みました。波長が合ったというべきか、聴くべきときが今訪れたのだと思います。当時から感じていたことや、そのときは見過ごしてしまったものを、今の言葉で記録してみます。

イメージとして浮かんだのは、太鼓の音が鳴り響くプリミティブな儀式です。そこに雄叫びや咆哮を思わせるコーラスが重なるので、本当に何かを祀る儀式に思えてきます。音に絡みつくMike Shinodaのラップは、天あるいは大地に向かって捧げる呪術的な言葉のようです。
LINKIN PARK – When They Come For Me
アルバムを構成する15曲のうち、ボーカルやラップが入っている曲は6割です。それ以外の曲はインタールードとして歌モノをつなぐように組み込まれています。いくつかの曲では先人の声がサンプリングされていて、話の内容や声のトーン、当時の社会情勢などが相俟って、メッセージ性が色濃く出ています。
たとえば、「The Radiance」にはRobert Oppenheimerのインタビューが使われており、彼の “Now, I am become death, the destroyer of worlds.” という言葉が傷跡のように、印象に残ります。また、「Wisdom, Justice, And Love」に重ねられているのはMartin Luther King, Jr.の演説 “Beyond Vietnam: A Time To Break Silence” です。曲名はこの演説の一節からとられています。
LINKIN PARK – Jornada Del Muerto
「Jornada Del Muerto」ではMikeが「持ち上げて」と「解き放して」という日本語をポエトリー・リーディングで繰り返します。それらは、アルバムのリード・シングル「The Catalyst」の歌詞に使われている “Lift me up” と “Let me go” の和訳です。日本のファンへのサービスにも思えましたが、しかしながらアメリカと日本にルーツを持つMikeが発することで、ただのマテリアルではなく、複雑な意味を持つ言葉に聞こえます。
「The Radiance」でOppenheimerの声をサンプリングし、「Jornada Del Muerto」で日本語を吹き込み、そして別の曲には「Fallout」というタイトルをつける。それらの事実を想像力の糸でつなぐべきなのか、それとももっと大きな枠組みで捉え、別の意味を見出すべきでしょうか。『A Thousand Suns』は、もちろんシンプルに聴くこともできますが、海の底に潜るように深く聴き込むと別の世界が浮かび上がってきます。
LINKIN PARK – The Messenger
終盤に盛り上がる「The Catalyst」の後を受けて、アルバムを締め括る曲が「The Messenger」です。穏やかに響くアコースティック・ギターとピアノを背にしてChester Benningtonが歌います。「The Catalyst」との落差も相俟って、アコースティック・サウンドの心地好さを存分に味わえます。
声を振り絞るように歌うChesterが目に浮かびます。それは言葉を運び、メロディを運び、音楽を届ける人の姿です。けれども、たとえば “When life leaves us blind”、“Love keeps us kind” という言葉は、Chesterの個人的なメッセージにも思えます。自分の大事な人々に向けて言葉を届ける、ひとりの人間の背中が見えます。静かな音の中で強く優しい歌声が響き、『A Thousand Suns』が終わります。
2020.08.10
#
by mura-bito
| 2020-08-10 20:54
| Music
2020-08-01 on Z-aN
2020年の前半からミュージシャンたちの活動方法が変わり、特に大きな影響を受けているのがコンサートです。大人数が集まることがリスクを高める要因になる以上、どれだけ念入りに対策しても開催は難しい。予定されていたコンサートが軒並み延期・中止になるなかで、観客を入れずにストリーミングで配信するのが現時点のベターな解決策になっています。
「Z-aN」という動画配信プラットフォームを使って、ORESAMAが初めてスタジオ・ライブを配信しました(〈Z-aN Fest: Over the Limit 0801〉というイベントの一環)。ORESAMAのぽん(ボーカル)と小島英也(ギター)に、サポートとしてMONICO(DJ)、三浦光義(ベース)、大松沢ショージ(キーボード)が加わりました。キーボードが参加するのが、ここ1年ほどで確立したORESAMAのライブ体制の大きな特徴です。

また、「ワンダードライブ」では、大松沢ショージが弾くYAMAHA reface CPというシンセサイザーの音が加わりました。もともと「ワンダードライブ」ではアナログ・シンセサイザーを思わせる太い音が入っていて、ライブでも他の音とともに流れます。今回は、そこにYAMAHA reface CPの太い音を重ねることで、音は厚みを増し、曲がたくましくなりました。聴きたいと思っていた「ワンダードライブ」の雰囲気にかなり近づいて、とても楽しかった。
配信終了後、小島英也が「配信ということでヘッドホンやイヤホンでの試聴も視野に入れた音作りをしてみました」とツイートしました。僕は音をバランスよく拾うヘッドフォンで聴いて、とても良かったと思います。ダンサブルなファンク・サウンド、静謐な空気を震わせるピアノ、そして柔らかいけれど芯の強さが感じられるボーカルなどの良さが、生演奏の臨場感とともに伝わってきました。会場では「音を浴びる」のだとすれば、ストリーミングは「音を飲み込む」というべきでしょうか。身体を揺らす代わりに頭の中が興奮に満ちます。
Hi-Fi POPS album trailer
ライブの途中のMCでぽんは、すでに発表されていたシングルのリリースに改めて触れ、さらに渋谷でのリリース・パーティーも発表しました。その時期は秋で、しかもライブハウスなので、通常のライブが開催できるかは不透明です。もちろんそれはORESAMAのチームも念頭にあるようで、ぽんのMCからは会場からのストリーミングを視野に入れていることが窺えました。
コンサートのストリーミングは今に始まったことではありませんが、「初めて開催するバンドが増えた」、「ストリーミング『だけ』で開催する」という点が2020年の特徴です。この状況がいつまで続くかは誰にも分からず、2021年以降を見据えて、今年は業界全体で実験を重ねているところなのではないでしょうか。
僕ら音楽愛好家ができるのは有形無形の応援を届けることくらいですが、もっとできることはないだろうかとも考えています。新しい音楽、新しい感動を届けてくれるアーティストに対して、もっと多くの感謝を伝えたいと思いながら、それぞれのチャレンジを受け取り、楽しみます。
2020.08.08
#
by mura-bito
| 2020-08-08 17:25
| Music

fujiokashinya (mura-bito)
| S | M | T | W | T | F | S |
| 1 | ||||||
| 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
| 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
| 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
| 30 |
最新の記事
| LINKIN PARK「Hy.. |
| at 2020-12-31 15:20 |
| ORESAMA「耳もとでつか.. |
| at 2020-12-30 15:24 |
| 米津玄師「感電」:巧みなアレ.. |
| at 2020-12-29 21:04 |
| Gacharic Spin「.. |
| at 2020-12-22 19:29 |
| Reol「激白」:近づいては.. |
| at 2020-12-16 21:20 |
| ORESAMA「あたまからモ.. |
| at 2020-12-09 22:30 |
| TM NETWORK『SPE.. |
| at 2020-12-05 14:55 |
以前の記事
記事ランキング
カテゴリ
タグ
TM NETWORK(312)
Tetsuya Komuro(151)
EDM/Electro(107)
Investigation Report(102)
EDM(98)
quasimode(72)
30th FROM 1984(63)
Rie fu(62)
Jerry(52)
Eir Aoi(45)
QUIT30(44)
Incubation Period(42)
Zedd(37)
30th FINAL(36)
AVICII(34)
ORESAMA(32)
Sakura(31)
LINKIN PARK(28)
Azumino(27)
START investigation(25)
Tetsuya Komuro(151)
EDM/Electro(107)
Investigation Report(102)
EDM(98)
quasimode(72)
30th FROM 1984(63)
Rie fu(62)
Jerry(52)
Eir Aoi(45)
QUIT30(44)
Incubation Period(42)
Zedd(37)
30th FINAL(36)
AVICII(34)
ORESAMA(32)
Sakura(31)
LINKIN PARK(28)
Azumino(27)
START investigation(25)
ライフログ
TM NETWORK
TETSUYA KOMURO
quasimode
Linkin Park
Paramore
Immigrant'sBossaBand
Ryu Miho
AVICII
Krewella
Zedd
藍井エイル
ORESAMA
Gacharic Spin
梨木香歩
村上春樹
京極夏彦
小林ユミヲ
Book
Comic
Music
その他のジャンル
ブログジャンル
