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音楽と物語に関する文章を書いています。
ワイルドじゃなくてもいいからタフになりたい
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カテゴリ:Visualart( 161 )
舞台『ねじまき鳥クロニクル』:壁を抜けるために下りた井戸、闇の中で記憶したバットの感触
役者の身体から流れ出る言葉の奔流、曲線と直線が入り乱れるパフォーマーの身体表現、ダイナミックに形を変えてステージを彩るセットと照明と生演奏の音楽。村上春樹の長編小説『ねじまき鳥クロニクル』を原作とした舞台が2020年に上演されました。休憩をはさみ3時間に渡った公演は、演劇とコンテンポラリー・ダンスとミュージカルが混ざり合って多彩で多面的な表現を通して、この複雑な物語の中に観客を呑み込みました。
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「岡田トオル」は猫を探して路地をさまよい、井戸のある空き家の敷地で「笠原メイ」と出会い、穏やかで奇妙な会話を交わす。妻の「岡田クミコ」が姿を消し、謎の女性から電話がかかってきて、義理の兄はクミコと縁を切るように通告する。「間宮中尉」から戦時中のノモンハンで体験した出来事を聞かされ、「加納クレタ」からは痛みに関する彼女の半生を聞かされる。彼は梯子を使って井戸の底に下り、眠るようにして考えを巡らせる。笠原メイは梯子を取り去り、井戸にふたをする。



ねじまき鳥クロニクル

井戸から出た彼は、「赤坂ナツメグ」と「赤坂シナモン」と出会い、いつの間にか顔に現われた痣を通して、数々の女性に一時の救いを与えることになる。義兄の使いと称する「牛河」が猫を抱いて現われ、その導きで、シナモンの部屋から彼はどこかにいるクミコと言葉を交わす。物語はクライマックスに向かい始める。彼は井戸の底に下りて壁を抜けると、バットを持って暗闇の中を歩く。その世界で、かつて電話で話した女性と言葉を交わし、そして誰かの助けを借りて、然るべき場所にたどり着く。彼はバットを両手で握りしめ、然るべきものに向けて何度も振り下ろす。
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主人公を渡辺大知成河というふたりの役者が演じ、一方の影のように同時に登場したり、同じ人間の別の顔を見せるために交代して演じたりしました。同じ「岡田トオル」という名前を持っていても役割が切り換わり、そして世界も切り換わる小説の展開が表現されていたと思います。

一方、笠原メイを演じたのが門脇麦です。原作では主役級のキャラクターではありませんが、この舞台では準主役ともいうべきポジションを与えられました。陰鬱なエピソードが絡み合う物語の中で風を吹かせるのが笠原メイの清涼感であり、その役割を果たすのに門脇麦の明るい声が貢献していました。笠原メイは天真爛漫のように見えて闇も抱えていますが、それでも主人公を光で照らします。そしてこの物語そのものも照らし、会場に張り詰めた緊張が和らぎ、最後に救いのようなものを与えてくれたのではないかと思います。

2020.05.04
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by mura-bito | 2020-05-04 14:15 | Visualart | Comments(0)
OKINAWA CATWALK SHOW
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2020.04.28
by mura-bito | 2020-04-28 18:07 | Visualart | Comments(0)
OVA『ACCA13区監察課 Regards』:拡がる物語世界に潜り込み、人々の日常を垣間見る
オノ・ナツメの漫画『ACCA13区監察課』が完結したのが2016年。翌2017年にアニメシリーズが放送され、そのラストシーンから約一年後を描いた、新作OVA『ACCA13区監察課 Regards』が2020年に劇場公開されました。ストーリーはOVAオリジナルですが、そこにサイドストーリー集『ACCA13区監察課 P.S.』のエピソードや本編のワンシーンが回想として盛り込まれました。本編の主要なキャラクターを中心に、今作オリジナルの新キャラクターが加わり、物語が進みます。
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『ACCA13区監察課 Regards』はスピンオフというほどではなく、事件らしい事件もなく、単行本のおまけ漫画にありそうなエピソードを綴りました。「若手が組織の体質に不満を持つ」や「進路に悩む」といったトピックは、本編のような網目の細かさはないものの、この世界のキャラクターたちの日常的な顔を見ることができた点が良かったと思います。



ACCA13区監察課 Regards

高橋諒が作った音楽もテレビシリーズと同じものが使われました。ジャズやファンクの雰囲気を感じる、味わい深くも熱い音は、このアニメに欠かせない要素であり、映画館の大きなスピーカーで聴けたことを嬉しく思います。そして、エンディングではONE III NOTES(高橋諒、Foggy-D、ぽん)の「Our Place」が流れました。この曲はテレビシリーズの最終回でも使われ、物語を締め括る役割を果たしました。ボーカルの終わりとともに曲がカット・アウトし、『ACCA13区監察課』の世界の余韻が漂うところがとても好きです。

オノ・ナツメは同じ舞台設定で『BADON』という漫画を連載しています。登場する地名や店名から『ACCA13区監察課』の空気を感じつつ、しかしそれとは異なる視点で描かれ、新しい意味をまとった物語が堪能できます。『ACCA13区監察課』は形を変え、新たな形をとって生き続けています。『ACCA13区監察課 Regards』もまた、拡張する『ACCA13区監察課』の世界の一部です。パズルのピースを見つけ、欠けたところにはめ込むようにして楽しむことができました。

2020.03.23
by mura-bito | 2020-03-23 21:40 | Visualart | Comments(0)
映画『にがくてあまい』:野菜を介して影響し合い、置き去りにした苦い過去と向き合う
映画『にがくてあまい』が劇場公開されたのは2016年。原作は小林ユミヲの同名の漫画です。原作ファンだったので映画で改変されるのが嫌で観なかった…というわけではなく、むしろどのような世界に仕上がるか楽しみだったのですが、タイミングを逸しました。封切りから3年以上が経ち、やっと観る機会を得ました。
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映画のストーリーは原作の単行本第1巻が軸になっており、そこに第2巻以降の登場人物やエピソードが盛り込まれました。マイナーチェンジはあるものの、原作から大きくかけ離れたという印象はありません。原作のテーマや表現を大事にしながら、エピソードのボリュームや順番を調整し、新しい物語としてまとめる。「このシーンとこのシーンをこういう風につなげるのか」などと、物語の編み方を楽しみながら観ました。僕は別に原作原理主義ではないのですが、それでも原作で好きなシーンが映画にも登場すると嬉しくなります。

物語は、食べ物に無頓着な「マキ」川口春奈)の仕事風景を映すところから始まります。彼女は極度の野菜嫌いでしたが、「渚」林遣都)と出会うことで野菜を食べるようになり、その魅力に引き込まれていきます。そして野菜嫌いの原因であるマキの父親「豊」との確執についても、渚の助けを借りながら向き合います。



映画『にがくてあまい』特報

渚も問題を抱えていました。彼は兄の死の責任をずっと感じ続けてきましたが、マキとの同居生活の中で、その消化しきれない思いが変わります。渚はマキに影響を与えながら、同時にマキから影響を受けていた。そのことを示すのが、マキがトマトを食べるラストシーンであり、ここは原作でも感動したポイントです。

その他、「操」(マキの母)、「ばばっち」(渚の後輩教師)、「アラタ」(渚の元同居人)、「ヤッさん」(二人が通うバーのマスター)、「ミナミ」(マキの仕事相手)などの脇を固めるキャラクターや、映画オリジナルのキャラクターが、物語に華…というか、笑いを添えます。新田真剣佑(当時は「真剣佑」)や松本穂香といった、今やCMやドラマでよく見る役者たちも出演しています。動画配信サービスでも観られるので、この世界を一度味わってみるのはいかがでしょうか。

2020.03.02
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by mura-bito | 2020-03-02 21:57 | Visualart | Comments(0)
村野真朱・依田温『琥珀の夢で酔いましょう』:クラフトビールが描く世界、味わいと香りが広がる物語
クラフトビールが登場する漫画『琥珀の夢で酔いましょう』(原作:村野真朱、作画:依田温、監修:杉村啓)を読んでいます。この漫画がきっかけで、僕はクラフトビールを飲むようになりました。あまりビールが好きではなく、むしろ遠ざけていた自分にとって新しい世界のドアを開いてくれた作品です。

物語の舞台は京都です。「白熊」という創作料理の店でビールの魅力に目覚めたマーケッター、北米やハワイを巡って地元に戻ってきた写真家、そして白熊の店主。三人が白熊の集客に試行錯誤するストーリーを軸にしつつ、それぞれの知り合いや各人の過去などが絡んで物語が展開します。
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作中に登場するビールはただ紹介されるのではなく、ストーリーの展開にリンクしています。いうなれば、クラフトビールは小道具ではなく役者の一人、重要な役を演じる助演でしょうか。それを実感したのが、初回に登場した「一意専心」というビールです。

一意専心は「ひとつのことに注力する」という意味を持ちます。物語の中で、グラスに注がれた一意専心が「雑事に惑わされず、自分がやってきた仕事に自信を持つ」きっかけを与えます。物語での役割や、登場人物が表現する味を通して、いつか一意専心を飲んでみたいと思い、同時にこの物語に強く惹かれていきました。

一意専心を製造しているのは京都醸造というブリュワリーです。一意専心を知ってから半年以上が経って、ようやく京都醸造を訪れ、ボトルを購入することができました。最初は「苦手かもしれない」と思ったものの、ゆっくりと飲み続けていると、不思議なことに、ほどよい苦味が心地好くなり、身体に染み込むようにおいしさが感じられました。ビールグラスに注いだ瞬間から飲み終わるまで、ひとつの物語を読んだようにも思えた体験です。
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今やクラフトビール愛好家は多く、たくさんの種類のビールが世に出ています。では、自分に合うのはどのようなビールなのか。百聞は一見に如かず、「一飲」に如かず。本作で知ったビールのうち、入手しやすいものをいくつか試してみました。その結果、よく飲んでいるのが「VEDETT EXTRA WHITE」というベルギーのホワイトビールです。

VEDETT EXTRA WHITEの三分の二をグラスに注ぎ、ボトルを数回回して残りを注ぐ(ようこそ酵母)。飲みやすくて、(飲み頃は3℃とされますが)多少時間をかけて飲んでいても、ずっと味わえます。僕はアルコールにあまり強くないので量は飲めませんが、ボトルの330mlくらいならちょうどいい具合に酔えて、琥珀の夢がふわりと浮かびます。
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MAGCOMIPixivコミックマンガドアなどでは、第1話や最新話を読むことができます。また、単行本は第1巻が刊行されており、次巻が2020年1月に発売されるとのことです。物語はどんどん展開して、登場人物のプロフェッショナルな面とそれによる陰の部分が交錯し、入れ替わり顔を出します。クラフトビールに加えて、いわゆるお仕事漫画としても楽しめるのではないでしょうか。グラス片手に、じっくり味わいたい物語です。

2019.12.26
by mura-bito | 2019-12-26 20:56 | Visualart | Comments(0)
Shiota Chiharu: The Soul Trembles (Uncertain Journey/In Silence)
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2019.12.01
by mura-bito | 2019-12-01 18:31 | Visualart | Comments(0)
あいちトリエンナーレ2019 情の時代 AICHI TRIENNALE 2019: Taming Y/Our Passion [PART4]
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もう一度、あいちトリエンナーレ2019に行きました。最初に訪れたときに行けなかったエリアと、作家の意向により観られなかったあるいは別の形で展示されていた作品を鑑賞するためです。もともと、会期終了前にもう一度観ようと思って計画を立てていましたが、直前に「表現の不自由展・その後」や他の展示の再開が実現したため、訪れる意味がぐっと大きくなりました。
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名古屋の空は晴れときどき曇り。最初に足を運んだ名古屋市美術館では、Mónica Mayer「The Clothesline」を観ました。性差別・セクハラ・性暴力に関する質問への回答が書かれた多くのカードが、洗濯ロープ(clothesline)に洗濯ばさみで留められています。先日は、何も書かれていないカードが、破り捨てられたように床に散乱していました。カードに刻み込まれた言葉は正しい位置に留められ、「声なき声」を鑑賞者に届けます。
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美術館を取り囲むように設置されたいくつものゴミ箱。Barthélémy Toguo「Africa: Trash Bag of the Western World(アフリカ:西欧のゴミ箱)」という作品です。アフリカの国々の国旗がプリントされたゴミ袋が取り付けられ、それらをたどっていくと、美術館をぐるりと一周します。前回来たときはまったく気に留めず、美術館のいつもの光景なのかなと思っていました。これもまた作品だと知ったときは、見ようとしなければ本当に見えないのだということを実感しました。この作品が投げかけているテーマとはまったく関係ありませんが、個人的には、とても衝撃を受けた体験です。
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地下鉄を乗り継いで四間道・円頓寺地区に向かいます。どこに何があるのか分からないまま、半ば迷いながら道を進むと、目に飛び込んできたのは道路標識…らしきもの。葛宇路(Ge Yulu)による「葛宇路(GE YU LU)」です。葛宇路とはアーティストの名前ですが、この作品を北京の一角、正式名称がなかった道に立てたところ、通りの名前として認知されたという冗談のような話です。メディアに取り上げられた後、当局に撤去されて、今は正式な名称がつけらているそうな。
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世の中の隙間を縫うような、誰も目を向けなかったところに光を当てる行為。商店街の片隅に静かにたたずんでいながら、目を引くエネルギーに満ちていました。東京に帰ってきて道を歩いていると、道路標識を目にするたびに「葛宇路」を思い出します。東京のどこかに存在する隙間に、「葛宇路」が立っているような、そんな気がしてなりません。
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円頓寺本町商店街アーケードで昼食をとり、商店街オリジナルのてぬぐいを購入します。アーケードを歩くことも、そしてここで買い物をすることもまた、作品の一部です。Ayşe Erkmenによる「Living Coral / 16-1546」。アーケードにかかるロープの色は珊瑚色(PANTONE 16-1546)だそうで、PANTONE社が選んだ2019年のテーマカラーとのこと。紙袋も同じ珊瑚色で印刷されています。これを下げてアーケードを歩くことで、いつの間にか作品に組み込まれていました。
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アーケードを抜けて、次にたどり着いたのは、大きな道路に面した小さな雑居ビルです。狭い部屋の中で、キュンチョメ「声枯れるまで」が上映されていました。テーマは名前。生まれたときに与えられた名前を、自らの意思で変えた人々が登場します。名前を変えた人々はインタビューに答え、生い立ちや名前を変えたかった理由、新たな名前を得てからの人生などについて語ります。そして、自らの名前をひたすらに叫びます。ひたすらに。
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今回の最終地点も愛知芸術文化センターです。数日前に展示再開が発表された「表現の不自由展・その後」。鑑賞者は抽選とのことだったので、時間の都合により諦め、扉が開かれた入り口を確認してその場を後にしました。暴力によって封じられた口が再び言葉を発する。向こうにあるものは観られなかったけれども、扉が開いたという事実だけはこの目で見ました。それだけでも、もう一度訪れた価値があったと思います。
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愛知芸術文化センターでは、Tania Bruguera「43126」が強く印象に残りました。「表現の不自由展・その後」が展示中止に追い込まれた際に、ボイコットされた作品のひとつです。部屋に入る前、左手の甲にスタンプが捺されました。奥のドアをスライドして中に入ると、メントールのつんとした匂いが鼻を刺します。真っ白な壁と、郵便受けのような隙間、そして壁に刻み込まれたいくつかの数字。左手に残る “10150909” と、壁に刻まれた “10150909” が呼応します。息が詰まりそうな部屋の中で、数字の意味を考えようとしてもうまく頭が回りません。やがて涙が出てきます。
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アートや芸術の役割とは何でしょうか。少なくとも、万人が納得するシンプルな説明は不可能です。得体の知れないものだからこそ、誰もが何とでもいえるし、「こんなものは芸術ではない」とすべてを否定することもできます。けれども、その作品が誰かの心を動かすものであれば、少なくともそれだけの意味はあったといえるのではないでしょうか。アートや芸術というカテゴリーに入れるかどうかは副次的なことであって、鑑賞者が何を思ったのかということが最も大事なことだと思います。
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特定の人々は作品が芸術か否かはどうでもよくて、他の目的があってあいちトリエンナーレ2019を潰そうとしていたのは想像に難くない。そういう悪意が渦巻く中でこそ、「人々に問いかけ続けるもの」が世の中に存在することの意味を自分の言葉で肯定したいと思います。今回であれば「アートや芸術」だったものが、例えば「音楽」や「小説」に置き換わる場面が来るかもしれません。「人々に問いかけ続けるもの」が存在する意味は、少なくとも自分から手放すべきではないと思うんですよね。
2019.10.15
by mura-bito | 2019-10-15 21:45 | Visualart | Comments(0)
[PART3] あいちトリエンナーレ2019 情の時代 AICHI TRIENNALE 2019: Taming Y/Our Passion
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2019.09.30

by mura-bito | 2019-09-30 21:33 | Visualart | Comments(0)
[PART2] あいちトリエンナーレ2019 情の時代 AICHI TRIENNALE 2019: Taming Y/Our Passion
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2019年8月から愛知県で開かれている「あいちトリエンナーレ2019」のテーマは「情の時代」です。英語では “Taming Y/Our Passion”。“tame” には「飼い慣らす」や「制御する」という意味があります。何かに接したときに湧き上がる気持ちや感情。それらに振り回されることが多い中で、それらをコントロールすることの必要性についてさまざまな角度から問いかける…ということでしょうか。
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Ugo Rondinone「vocabulary of solitude(孤独のボキャブラリー)」は、目を閉じたピエロが広い部屋のあちこちで座り込んだり寝転んだりしている、インパクトの強いインスタレーションです。ファインダーを覗き込むたびに、そこに映る表情と姿勢の奥に潜むものを想像していました。笑顔を消して動かなくなったピエロは、自らのアイデンティティを否定してまで何を思う。
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芸術に限らず「表現」は社会や政治と無関係なのか。無関係であってほしいと願う人の気持ちは理解できますが、鑑賞する人が増えるほど、作品は作者の手から離れて遠くにいくものです。作者が政治的な意図を込めずとも、鑑賞者が政治的な要素を感じることはあるし、その逆もあり得ます。昨今は「分断」が顕著になって加速していますが、その分断の中にピエロたちは存在しているのだ…などと文脈を勝手に加えてみると、社会的、政治的な色彩を帯びます。政治性をもたないものは、この世に存在しないとも言えるのではないでしょうか。
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そして、あいちトリエンナーレ2019に行くきっかけとなったのが「表現の不自由展・その後」です。多くの人がニュースで知ったとは思いますが、抗議が多くの脅迫電話やテロの仄めかしにまでエスカレートし、展示中止に追い込まれた企画です。そこにいくためのドアは封鎖され、ドアや周囲の壁には数多の付箋が貼られていました。付箋には、ここに来た人々が受けた差別や不自由などが綴られています。
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この企画は、ある種の人々の暴力性を解き放つ装置となってしまいました。その恐怖にさらされ続けたスタッフの苦痛と苦労は察するに余りあります。「この出来事も含めてアート」などとはいえないものの、「なかったことにする」こともできません。過去に「組織的検閲や忖度によって表現の機会を奪われてしまった」作品が暴力によって黙らされたという事実は、どれだけ時間が経とうとも、この問題が残り続けることを示しました。作品が排除されても、そして最後まで展示再開が叶わなかったとしても、それらが問うものは消えるわけではないのでしょう。
2019.09.25
by mura-bito | 2019-09-25 20:58 | Visualart | Comments(0)
[PART1] あいちトリエンナーレ2019 情の時代 AICHI TRIENNALE 2019: Taming Y/Our Passion
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愛知県は名古屋市と豊田市で開催されているイベント、「あいちトリエンナーレ2019」を鑑賞しました。午前中に豊田市美術館を中心としたエリアを回り、午後は名古屋市の会場を巡りました。次から次へと作品を鑑賞できるのが芸術祭の魅力です。
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美術館から美術館への移動すらトリエンナーレの一部であるかのように思えました。ただの移動ではなく、芸術祭ならではの文脈が生まれるのかもしれません。作品に感化された状態で街を歩き、ふと周りに意識を向けてみると、街の空気や行き交う人々の表情が作品のひとつに見えてきます。
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印象に残った作品がいくつもあります。小田原のどか「↓ (1946-1948)」、藤原葵「Conflagration」、Mónica Mayer「The Clothesline」、青木美紅「1996」、Regina José Galindo「LA FIESTA #latinosinjapan」、碓井ゆい「『ガラスの中で』」など、枚挙に暇がありません。展示内容が変更された作品もありますが、本来の形ではないにせよ、新たな文脈におかれた作品として向き合いました。
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作家の意図をふまえて鑑賞すべき作品もあれば、何も考えずからっぽの状態で向き合う作品もある。そして、作品の中に埋没して、そこに所属しながら感じ取るインスタレーションもあります。僕は鑑賞者を取り囲むようにして静止物が展開するインスタレーションが好きなので、そうした作品がある場所では自然と足が止まりました。作家が定めた文脈に沿うかは別にして、作品を身体で感じながら、そこから派生するイメージを言葉にしたくなります。
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どこまでがカンヴァスなのか、どちらが背景なのか。文谷有佳里「『なにもない風景を眺める』ほか」に惹かれました。部屋に入った直後は、壁にドローイングが掛けられたシンプルな展示に思えたものの、ほどなくしてガラスにまで線が書かれていることに気づきました。線の群れは絵の中から飛び出し、こちらと向こうを隔てるガラスにまで広がります。センセーショナルでもSNS向きでもないのですが、鑑賞者の中にまで潜り込みそうな線の戯れは実に印象的でした。
2019.09.24
by mura-bito | 2019-09-24 21:56 | Visualart | Comments(0)

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