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音楽と物語に関する文章を書いています。
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オノ・ナツメ – リストランテ・パラディーゾ
オノ・ナツメ『リストランテ・パラディーゾ』は、イタリアはローマの一角に店を構えるリストランテ、そこに集う人々を描く「美味」な物語です。本編の『リストランテ・パラディーゾ』(全1巻)の他、その前後のエピソードを描いた『ジェンテ ~リストランテの人々~』(全3巻)が刊行されています。

本作でキーとなってくるのは「cameriere(カメリエーレ)」と呼ばれる男性の給仕人です。英語でいうところのwaiter/waitress、ホール担当のスタッフということですが、それは「料理を届け、説明し、接客するプロフェッショナル」です。女性の場合は「cameriera(カメリエーラ)」と呼ばれるようです。
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題名の『リストランテ・パラディーゾ』は、リストランテの名称ではありません。舞台となるリストランテは「casetta dell’orso(カゼッタ・デルロッソ)」といい、意味は「クマの小さな家」といった感じでしょうか。オノ・ナツメはサインに添えるマスコット・キャラクターをクマにするほど好きなので、そこから名付けたのだと思います。また、リストランテのオーナーはクマっぽい容姿なのですが、店名からキャラクターを作り上げたのかなと予想しています。

では「paradiso(パラディーゾ)」とは何か。英語で言えばparadiseなので楽園や天国という意味ですが、これは本作に登場するカメリエーレのひとり「クラウディオ」のファミリー・ネームです。彼と、彼に惹かれた「ニコレッタ」(オーナー夫人の娘)との交流を描くのが『リストランテ・パラディーゾ』です。カメリエーレもシェフもソムリエも老眼鏡をかけているという一風変わったリストランテを舞台に、クラウディオが抱えてきたものやそれとの決別、ニコレッタと母親の関係の変化などが描かれます。ゆっくりと噛み締めて、じっくり味わうことで、温かくて幸せな気分にさせてくれる物語です。

2017.12.20
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by mura-bito | 2017-12-20 22:08 | Visualart | Comments(0)
高野 雀 – It’s your (new) ID.

あたらしいひふ

高野 雀


高野雀さんの単行本『あたらしいひふ』に収録されている「It’s your (new) ID.」は、自分を規定するものの自覚や揺らぎ、交差を描く物語です。同じ学校に通ういくつかの男女ペアが主役となってそれぞれの話が展開され、それぞれのIDとnew IDが描かれます。

自分を規定するものに対する葛藤は思春期のテーマになりがちですが、この物語ではすでに受容されていて、むしろ客観的に俯瞰的に捉えています。理想と現実の乖離に苦しむというよりは、冷静に見つめている姿が印象的です。その中でも心の揺れ、感情の起伏はあるわけで、まったくの無風というわけでもないのですが、そうした揺らぎすらも、全体に漂うニュートラルな空気に呑み込まれていきます。

◆◆◆

例えば、身体中にほくろのある少女が登場します(サブタイトル「mole」)。夏になると目立って好奇の目で見られるから嫌いだけれど、なんとなく折り合いをつけて生きている。自らの特徴のひとつですが、肯定も否定もしきれません。あるとき、同じクラスの少年がそのほくろを「星みたいでかっこいいよね」と言って話しかけてきます。彼は彼女のほくろから宇宙を漂う無数の星をイメージし、彼女に惹かれています。二人が付き合うようになってしばらく経ったある日、彼女が熱心に話している中、彼はそっと彼女の手を取ります。重ねた手に自分の心を委ねるようにして、彼女の声に耳を澄ませながら、彼は自らのイメージに広がる宇宙を漂います。

また、背中に「見えない大きな刻印」(斑のようなもの?)を持つ少女は、時折うんざりしながらも、淡々として生活を送っています。彼女は自分を鹿のようだと思い、鹿を抱え、鹿に囲まれるファンタジーまで思い描きます。一方、アニメのキャラクターに心酔する少年は、その少女と学校ですれ違って、キャラクターの抱き枕からはしない、自らが求めていた匂いに触れます。そして、放課後の教室で少女の首筋の匂いをかがせてもらう少年は、抱えていたものが崩れていくのか、やがて涙をこぼします。エキセントリックな展開に戸惑いながらも、二人のIDが交わる様子が印象に残ります(サブタイトルは「flavor」)。

◆◆◆

先生が生徒たちに向かってcomplexとcomplicatedの違いを解説する場面があります。どちらも「複雑な状態」を表わすものの、厳密にいうとニュアンスが異なります。作中でも挙げられているhousing complexが「団地」であるように、complexは「関連する要素の集合」というニュートラルな状態を示しています。一方、complicatedは厄介な問題を持った複雑さ、もつれた糸のような「解決するのが難しい」状態を示します。なお、complexは「編む」、complicatedは「折り重ねる」という意味の言葉をルーツに持ちます。

「It’s your (new) ID.」で描かれているのは、complicatedというよりはcomplexの状態なのだと僕は解釈しました。少年少女のIDが交錯する様子は「解決すべきこと」ではないし、自らのIDについて悩むことはあってもそれがクリティカルというわけでもない。各自のIDどうしが接触したとき、衝突ではなく併存が描かれます。一人ひとりが各自のIDを持って存在していることは、それこそ団地のようなものなのかもしれません。そうした中で、new IDへの更新は人知れず、脱皮のように、あるいは細胞の入れ替わりのように行なわれていきます。淡々とした日常の中にときどきIDを更新させるような出来事があり、同じような温度で更新は繰り返されるのでしょう。
2017.11.20
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by mura-bito | 2017-11-20 22:09 | Visualart | Comments(0)
高野 雀 – あたらしいひふ(単行本)

あたらしいひふ

高野 雀


高野雀さんの「あたらしいひふ」は、2013年頃に同人誌に掲載された漫画です。2015年に『さよならガールフレンド』の特設サイトで「あたらしいひふ」が全編公開され、僕はそこで読みました。現在は半分ほどが同じサイトで公開されています。

この度、「あたらしいひふ」を表題作とし、同じように同人誌で発表されていた作品を集めた単行本が刊行されました。「あたらしいひふ」を含めてほとんどの作品で絵が描きなおされ、台詞も一部修正されています。単行本として改めて読んでみて、そして2年前に書いた自分の文章を読みなおしました。今言いたいことと変わっていないため、再掲します。

変わりたいと思う気持ちは皆あれど、どのように変わりたいか、ということは千差万別ですよね。自分の置かれた環境で、それを受け入れたり、あるいは争ったりしつつ、一方では自分にはないものを求めてもいる。言葉に出さなくても、例えば誰かの服装を、思わず目で追ってしまう。そこに自分にはないものを見つけ、少し羨む。『あたらしいひふ』では、四人の過去の出来事から現在の姿、そして自分の少し前を歩くものを描きます。四つの世界は巧みなストーリーテリングによって少しずつ重なり合い、心地好い読後感が残ります。

(中略)

学生の時期を過ぎて働くようになってからも、彼女は他人と異なる服を着ています。ある時、世間受けするような服装をした女性に出会い、ふと考え込みます。目の前の女性は、自分が格好悪いと思って避けてきた系統の服をさらりと着こなしている。相手から「無難な服しか持っていない」と聞いて、一層困惑します。無難だとわかっていながら何故着られるのか、何故似合うのか。学生時代とは異なる次元で、似たような問いを突きつけられます。

高野雀さんの物語は、登場人物の表と裏が描かれるときの「間」や「余白」が特徴的だと思います。ある瞬間に周囲の音が消える、あの不思議な感覚です(これは誰もが経験することなのだろうか?)。音のない世界にぽんと放り出されたかのような、純度の高い静寂。「あたらしいひふ」を読んでいると、そういう不思議で奇妙で興味深い瞬間が何度も訪れます。

今回の修正では、ブランド名や服の形も大きく変更されています。4年も経つとファッションは恐ろしいほどに古びますね。1年ですら危うい。オリジナルで「無難な服」と表現されていた「無難にフェミニンな」服さえも、時代の影響を受けていたわけですね。当然といえば当然ですが、それこそ毎日同じようなシャツとスーツで過ごしているとまあ理解は難しい。本作のタイトルは「皮膚」と「被服」を掛けたものだそうですが、テーマとは関係ありませんが、そのふたつは経年変化という点で同じ道をたどるものだと思いました。古びていく宿命に抗う、アンチエイジングとファッションは重なり合うところが多い。
2017.09.12

■追記
新しい絵でアップデートされた「あたらしいひふ」。前の絵も好きだったのですが、新しくなった絵も好きです。線がシャープになったためでしょうか、オリジナルと比べて乾いた感じがしつつ、それでいてポップな雰囲気が漂っていると思いました。軽いとはいわないまでも、ヘビーな感じではなく、わりと楽しみながら感情移入ができる。

もちろんテクニカルな部分に関しては、今の方が上回っているに決まっています。僕も前に仕事で書いた文章に向き合うのは勇気が必要ですし、直せるものなら直したいと思うことも多々あります。それはそうなのですが、読み手からしてみればそれぞれに異なる魅力があるんですよね。だから、過去も現在もそれぞれに楽しいものです。

2017.09.20
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by mura-bito | 2017-09-12 21:37 | Visualart | Comments(0)
山田 怜 – 鳴沢くんはおいしい顔に恋してる 4

鳴沢くんはおいしい顔に恋してる 4

山田怜


最終巻。表紙では、主要キャラクターが一同に会して食卓を囲みます。そこに花開くは、ジュリエッタ、冬子、ハル、それぞれの「おいしい顔」。それを見守るのは、おいしい顔を生み出した張本人でもある鳴沢くんと飼い猫のクリムト。

ジュリエッタとの突然の出会いに始まり、おいしい顔との出会い、さまざまな人たちとの交流を経て、鳴沢くんは少しずつ変化を見せました。それらは、ジュリエッタの帰国とともに一度終わりを告げます。

僕がこの漫画を知ったのは、「WEBコミック ぜにょん」に移ってからです。1巻と2巻を同時に読破して、鳴沢くんの紆余曲折や、その後の変化を楽しんできました。『にがくてあまい』が終わったタイミングで知った料理漫画だったから…最初はそうだったと思うのですが、物語が持つ不思議な吸引力に誘われて、毎月の更新を楽しみにするようになりました。終わるのは寂しいものです。

最終巻に収録された話では、それぞれの登場人物が物語の終わりに向けて、一歩を踏み出す様子が描かれています。それは鳴沢くんも同じであり、ジュリエッタとの別れで見せた心の震えは、彼の得たものの大きさを感じさせます。「ラブコメ」とは少し違うのかもしれませんが、互いの抱えた傷を見せ合い、それを抱えて先に進もうとする姿が浮かび上がります。おいしい顔は正義。



2017.08.29
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by mura-bito | 2017-08-29 22:22 | Visualart | Comments(0)
吉川景都 – 猫とふたりの鎌倉手帖 3
猫とふたりの鎌倉手帖 3

猫とふたりの鎌倉手帖 3

吉川景都


拡散力抜群の愉快なネコツイートでお馴染み、吉川景都さん。先日、漫画『猫とふたりの鎌倉手帖』の第3巻が刊行されました。第1巻では夏、第2巻では秋というように季節が巡り、そして今作では冬が到来します。

冒頭から雪が降り積もり、一冊を通じて鎌倉における冬の生活を描きます。何げない日常に転がる小さな発見や驚きを丁寧にすくい取り、ふたりの気持ちの交換を描くのが巧みだなあと思います。そして、ハツ、ミノ、ぎあら、ユッケ、サンチュという5匹のネコたちは冬でも揺るがない独自のスタンスを貫きます。まあ、ネコですから…

『猫とふたりの鎌倉手帖』の本編は紙の雑誌に連載されており、一方で番外編(『猫とふたりの鎌倉手帖 猫の巻』)もWeb版に連載されていました。猫の巻は2016年12月で終了しましたが、本編はもちろん続いています。1/20には新たに「コミックバンチweb」というサイトがオープンし、本編が第1話から順にアップされていくようです。

コミックバンチweb:猫とふたりの鎌倉手帖

冬のネコはこたつとともに生きています(偏見)。こたつで丸くなったり、暑くなったら外に出てきて畳に寝そべったり、あるいはこたつ布団にもたれるように横になってみたり。こたつを巡るネコのポジション取りは、変幻自在の神出鬼没。先に占拠されたら人間はその間を縫って足を置かねばならないし、先にこたつに入っていたとしても明け渡しを執拗に要求されたら、幾許かの抵抗はできたとしても、結果的には屈して場所を譲らざるを得ない。こたつはネコの城なのです…

inthecube – 吉川景都 – 猫とふたりの鎌倉手帖 1
inthecube – 吉川景都 – 猫とふたりの鎌倉手帖 2


2017.01.26
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by mura-bito | 2017-01-26 21:36 | Visualart | Comments(0)
[PART2] オノ・ナツメ – ACCA13区監察課 1
ACCA13区監察課 1

ACCA13区監察課 1

オノ・ナツメ


[back to PART1] 飄々とした佇まいで、往来の中や広場のど真ん中で煙草を吸うジーン。この世界では、煙草には高額の税金が課されており、金持ちの道楽として認知されています。ACCAのサラリーは薄給で知られており、少なくともジーンのように気ままに煙草を吸えるものではない。一体どのような生活をしているのか、人々は憶測を重ね、煙草をふかす彼の姿を眺めます。

最初、煙草はただの小道具として、ジーンのキャラクター設定のひとつとして登場します。やがて重要な役割を担うことになり、物語を読み解く鍵として機能します。監察課副課長として行く先々で煙草を取り出し、火を点ける。彼が使うライターには、ACCAの名の由来となったこの世界の鳥「アッカ」が描かれています。



ACCA13区監察課

第1巻では、ジーンは13区のうち「ファーマス区」と「バードン区」を視察します。ファーマスは広大な農地を持つため農業生産に優れており、ドーワー王国の食糧庫とも言えます。一方、バードンは首都の機能も持ち合わせ、中央議会もACCA本部もあります。ファーマスはアメリカの農村のような風景が広がるのに対して、バードンはニューヨークのマンハッタンのように現代的なビルが立ち並びます。

各区を視察するジーンを追いかける物語は、「視る」側のジーンが「視られ」て、いつしかさまざまな思惑に巻き込まれていく様子を描きます。ページを繰った瞬間から、結末に向かって伏線が張られていきます。それらの間にミッシング・リンクを見出し、読み解いてみるのもおもしろいと思います。すべての謎が解き明かされた今だからこそ、各所に置かれた布石をミステリー感覚で楽しむことができます。そしてもちろん、オノ・ナツメの独特の絵柄とそこに漂う雰囲気もまた素晴らしく、楽しみは尽きない作品だと思います。

2017.01.24
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by mura-bito | 2017-01-24 21:38 | Visualart | Comments(0)
[PART1] オノ・ナツメ – ACCA13区監察課 1
ACCA13区監察課 1

ACCA13区監察課 1

オノ・ナツメ


オノ・ナツメの『ACCA13区監察課』という漫画を読みました。流れているアニメを偶然目にして、原作も読んでみようと思い立ったのですが、こういうときにKindle版は便利ですね。あれよあれよと言う間に最終巻まで読み終えました。漫画自体は2016年12月に刊行された第6巻で終了し、2017年1月からはアニメがスタートしました。

物語の舞台は架空の世界にある「ドーワー王国」。国は13の「区」から構成されており、それぞれが独自の文化を持ち、自治区として治められています。例えば北に位置する区は雪深く、強い酒で身体を温めるのを好みます。西端の区では、領地に多くの島を含み、漁業が盛んです。南方には温暖な気候の区があり、それゆえか平均寿命が高い。広大な砂漠の中で洞窟に街を作って暮らす区もあれば、ギャンブルに人生を捧げる人々が集まる区もあります。13色に塗られた区は、ひとつの国が孕む多様性を示しているかのようです。



ACCA13区監察課

13区はかつて独立した国でした。あるときにドーワー王国としてひとつに束ねられたものの、その後、クーデターによって分裂の危機が訪れます。分裂を防ぐために区ごとの自治が認められ、中央の政治は各区の代表者からなる議会で行われることになり、王室は象徴的な存在となりました。そして、警察、消防、医療などの公共的な機能は統一した組織のもとで運営されるようになりました。その組織が「ACCA(アッカ)」であり、議会からは独立した機関として、国民の生活に根差してきました。

主人公の「ジーン」は、首都に置かれたACCA本部の「監察課」に勤める青年です。監察課のメンバーは、本部と各区に駐在しています。派遣された監察課のメンバーは、不正などを防止するために各区のデータを管理して本部に送っています。そして、それらのメンバーが適切に業務を行なっていることを確かめるのがジーンの仕事です。副課長の肩書きを持ち、不定期に各区を視察して、報告書を作成しています。そんな彼の指には、いつも煙草が挟まっており、ゆらゆらと煙が立ち上ります。人々は彼のことを「もらいタバコのジーン」と呼びます。[to PART2]

2017.01.23
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by mura-bito | 2017-01-23 22:01 | Visualart | Comments(0)
山田 怜 – 鳴沢くんはおいしい顔に恋してる 3
鳴沢くんはおいしい顔に恋してる 3

鳴沢くんはおいしい顔に恋してる 3

山田 怜


『鳴沢くんはおいしい顔に恋してる』の第3巻が刊行されました。「おいしい顔」を見るのが好きな高校生「鳴沢くん」が、そのため「だけ」に料理を作り、振る舞う物語。第3巻の前半は作品のメイン・テーマである「おいしい顔」にフォーカスした、コミカルな話を集めています。一方、後半ではシリアスな雰囲気が漂いますが、その大きな要因は登場人物たちの過去が描かれていることでしょう。

http://www.zenyon.jp/lib/top.php?id=102

額に残る大きな傷跡が彼の過去を物語ります。そのような傷を彼は何故負ったのか、それは彼の心に何を残したのか。傷跡について鳴沢くんはどのように思っているのでしょうか。彼は「ジュリエッタ」をはじめとした人々に出会い、「おいしい顔」を通じて交流することで少しずつ変わってきました。そうした中、第3巻で語られた「今まで起こったこと全部、忘れなくて済む」という言葉が印象的です。傷を忘れないための傷跡。

また、第3巻の最後ではジュリエッタの過去も描かれます。彼女はイタリアから来て鳴沢くんの家にホームステイしているのですが、日本に興味を持った原点、そして彼のことを気遣う背景が浮かび上がります。「おいしい顔」を介して触れる互いの心は、それぞれの記憶につながっています。

シリアスな展開は「おいしい顔」とは遠いようにも思えますが、どのような話題が展開されても「おいしい顔」は物語のコアとして機能します。闇から引き戻す「救い」になることもあれば、誕生日を飾って闇を照らすこともあります。さまざまな「おいしい顔」が描かれる様子は、さながら花咲く庭です。
2016.12.28
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by mura-bito | 2016-12-28 23:01 | Visualart | Comments(0)
真崎福太郎 – 文豪アクト 1

文豪アクト 1

真崎福太郎


『文豪アクト』という漫画を知りました。高校演劇を題材にして、芝居にかける情熱を描いています。それこそ芝居を観ているかのようなテンポのよい展開が魅力的な作品です。名古屋の高校を舞台にし、登場人物の名前も名古屋界隈の地名にちなんでいます。鶴舞、金城、荒畑、八熊など。

『月刊コミックゼノン』で連載されており、つい先日、その第1巻が発売されました。単行本発売のプロモーションの一環として、「WEBコミック ぜにょん」で第1話から第3話が無料で公開されています。

WEBコミック ぜにょん – 文豪アクト

物語は演劇部の分裂から始まり、非主流となった三人が、新たなグループを立ち上げるところから始まります。それを傍観者の立場で見ていた一人の同級生が、見えない糸に導かれるかのように、本人も気付かないうちに三人の活動に巻き込まれていきます。それは、観客として芝居を観ていたはずなのに、いつの間にか舞台に上げられて役者として振る舞っているという、奇妙な展開。

第1巻のテーマは「覚醒」でしょうか。舞台の幕が開くと、物語はトップスピードで展開します。同級生から敬遠されている「八熊太平」が、三人の元演劇部員と出会い、その殻の中から出始めます。「鶴舞翔子」は、彼の中にたぎっていた表現への渇望を引きずり出し、焚き付け、そして受け入れます。そして、四人は徐々にまとまっていき、何もかもが足りない状況の中であっても、「自分たちの芝居を打つ」という目標を立てます。分裂によって去った仲間の姿もちらりと見かけましたが、そちらのストーリーは第2巻以降に譲るようです。

***

僕が裏方として演劇に携わっていたのは大学生の頃でしたが、当時を思い出します。みんながそれぞれに自らに溜め込んだエネルギーを発散させるように、ひとつの芝居を作り上げました。個と個とがぶつかり、混ざり、大きな「ひとつ」ができる。あのダイナミズムは筆舌に尽くし難く、一度経験すると、強烈な記憶となって身体に刻み込まれます。

僕は舞台を照らす役割を主に担っていましたが、舞台には、確実に自分がいました。光を介して、自分が表現したいものが舞台に存在した。「みんなで作り上げるもの」は個を圧殺するものではなく、どこかに必ず個が光るものです。それを肌で理解していたからこそ、何度も参加したし、多くの時間を費やし、沢山の満足を得られたのだと思います。

『文豪アクト』を読んでみて、そんなことを考えました。懐かしさよりも、舞台を作り上げていたときの記憶が鮮明によみがえります。そのときの気持ちとともに。
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2016.08.27
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by mura-bito | 2016-08-27 22:09 | Visualart | Comments(0)
ドラマ『重版出来!』:フィクションなのかリアルなのか、観た人の中で躍動する物語
4月から放映されていたドラマ『重版出来!』が完結しました。漫画編集者、漫画家、書店員といった、漫画の出版に携わる人々の姿を描く物語です。感想は「おもしろかった!」というシンプルな言葉に集約されます。第1話を観たら、あとは物語のおもしろさにぐいぐい引っ張られて、最後の第10話まで存分に楽しめました。

きっかけは、原作漫画の編集を担当する山内菜緒子さんの話です。『漫画編集者』[*1] というインタビュー集に掲載されているのですが、彼女の話に感銘を受け、それが(原作を通り越して)ドラマを観るきっかけとなりました。

作中の要素が次から次へとつながっていく、そのストーリテリングが素敵でした。ひとつの回で対照的な物事を描いて驚いたこともありますし、背反しているようでいて実は共通していたという仕掛けもありました。例えば、新人作家の単行本が世に出る瞬間と、不良在庫の本や雑誌が断裁される姿を同一の回で描いたときは、説教めいていない、ちょうどいい塩梅で出版業界の現実を表現していましたよね。

***

ユニークな役者が揃っていたこともまた、おもしろさを生み出した要因でしょう。例えば、松重豊と生瀬勝久の掛け合いは、数こそ少なかったものの、いつ見ても愉快でしたし、時として胸が熱くなりました。二人は管理職としての複雑な気持ちをうまく表現していましたよね。それぞれ異なるタイプながら、どちらも部下に慕われていました。

そして主演の黒木華が魅力的だったことは、多くの人が同意することと思います。彼女が演じた主人公は、会社員の常識も型も破る外来種のような存在でしたが、波風を立ててその場の空気を変えるというより「他者の変化に立ち会う」役どころだったのではないかと思います。「立ち会う」という行為は編集者の本質と言えるかもしれません。

当然ながら編集者はそこにただいるだけでなく、影響を与え、与えられ、それぞれの変化にそれぞれの方法で関わっていました。印象的だったのは、滝藤賢一が演じる看板作家を奮い立たせたところですね。持ち前の根性(と握力)でぶつかっていきつつも、最後は漫画のアオリ(連載漫画の最終ページに編集側が入れる、次回予告などの言葉)を通してメッセージを伝えます。その場面に根性だけではない、人と関わり合うセンスを感じました。

***

Twitterを眺めていると、漫画を読むのが好きな人はもちろん、それぞれの役者のファン、そして漫画家自身の反響が大きかったと思います。業界ならではの共感もあれば、自らの体験に胸をかきむしる様子も散見されました。原作、脚本、演出、演技、ひとつひとつの歯車がかみ合って動き出すと、あちこちの人の心を揺さぶります。

僕もまた、編集という世界(の端)にいる自分と重ねてみたり、体験したことのないダイナミックな漫画編集の世界を驚きと感動で眺めてみたりと、俯瞰することでも深く楽しめました。また、描かれなかった部分を自らのイメージが補完します。想像の余白があるということは、もともとおもしろい作品であり、人物が魅力的に描かれ、演じられている証拠です。

『重版出来!』はとても良いドラマだったと思いますが、作品の評価というものは難しいですよね。(自分としては心を打たれたが酷評された)大河ドラマ『平清盛』の例もあるため、自分が見ている範囲だけで判断するのは早計なのかもしれません。とは言え、ドラマの評価は専門家に譲るとして、これだけ引き込まれる物語に出会えたのはやはり素晴らしい体験だったと言えます。

[*1] note: 『漫画編集者』:5人の漫画編集者にフォーカスした、それぞれの肉声を伝えるインタビュー集

2016.06.16
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by mura-bito | 2016-06-16 22:42 | Visualart | Comments(0)

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