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[PART2] 吉田修一『東京湾景』:「心」という見えない化け物にコントロールされた二人の距離感
『東京湾景』は、メールで知り合った男女が紆余曲折を経た後に晴れてリアルな愛に目覚める…という話ではありません。今でいえばSNSということになるのでしょうが、インターネットとリアルを対比して「リアルは大事」と結論付けるのは、分かりやすいというか、カタルシスは得られますよね。本作では、そういった表面的な対比を避け、メールはあくまでも媒体のひとつとして扱われます。

メールなどの媒体を介さずに対面しているときですら、二人は向き合っているようで向き合っていません。気持ちだろうが身体だろうが、触れているようで実は触れていない。触れようとしているのに、触れたくないという気持ちも同時に湧き上がる。互いの言葉は絡み合わずに、身体の中に降り積もります。作中の「ただのからだだったらいいのに」という言葉が印象に残りました。言葉を介して互いの気持ちが澱のように蓄積されて、それらは胸を打つのではなく、二人の心を重くしていきます。
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自分ではコントロールできない距離感、その原因は自分の「心」なのではないかと思います。「心」は自分のもののようでいて、自分のものではない。「心」は自分がコントロールできない存在であり、むしろ自分を支配する存在です。『東京湾景』は、気持ちの距離と身体の距離のずれに互いが思い悩むラブ・ストーリーの奥で、「心」という不可解な化け物を捉えた作品だと僕は思います。その化け物に抗いながら、絡め取られながら、二人はもがきます。

吉田修一の描く「人と人のつながり」には重みがあります。『東京湾景』に登場するツールや設定は表面的に捉えられやすいものですが、だからこそ、その奥に潜り込むことで「人と人のつながり」が持つ重みを強く感じることができます。そう考えながら再読すると、後年発表される大作『悪人』につながるものが、芽を出す程度だったとしても、『東京湾景』には含まれていたのではないかと思えてきました。
2017.11.30
by mura-bito | 2017-11-30 21:24 | Book
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