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音楽と物語に関する文章を書いています。
ワイルドじゃなくてもいいからタフになりたい
Want to become tough, not need to get wild.
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京極夏彦 – 書楼弔堂 破曉
書楼弔堂 破暁

書楼弔堂 破暁

京極夏彦


京極夏彦の『書楼弔堂 破曉』は、記録に残された歴史の一点から鮮やかに虚構の世界を立ち上げ、「本」という存在、その意味に向き合う物語です。歴史上の人物も登場し、その話し方や考え方は作者の筆によるものなのですが、政治や戦争といった観点で描く物語とは異なり、日常の言葉が飛び交う時間を切り取った描写が新鮮であり、ひと味違う時代小説として楽しむことができます。

舞台は明治維新後の日本です。文化も政治も、そして人々の営みも大きく変わったようで、江戸以前のものが強く残る時代。あるものは連続的に残り、あるものは非連続的に断絶しています。そうした中で、生き方に迷う人々が、引き寄せられるようにたどり着くのが一軒の書肆(いわゆる本屋)。書肆を訪れた客と主との会話、そして見届け人のような語り手の言葉で構成される物語です。次から次へと交わされる言葉に引き込まれ、圧倒的な量の本や暗がりでゆらゆらと揺れる灯りの中で自らもその会話に立ち会っているかのような気にすらなりました。会話の中で、幽かに立ち上がってくる変化を捉えます。

***

「破曉」とは「曉(アカツキ)を破る」、すなわち夜明けを迎えるということでしょうか。明治より前が「夜」というわけではないのでしょうが、「御一新」によって政治のシステムが変わり、次第に人々の生活も変化してくると、新旧の価値観に挟まれて揺らぐ人々も多かったのだろうと思います。この物語では、本との出会いこそが次の一歩を踏み出す契機となります。膨大な言葉の奔流とともに、「その人に読まれるべき本」の存在が、人々の背中を押す。

表紙を飾る月岡芳年の「幽霊之図うぶめ」は、霞んで今にも消え入りそうで、怖さよりも切ない気持ちが呼び起こされます(浮世絵 太田記念美術館で観たときも、その儚い雰囲気にしばし言葉を失いました)。そして、表紙だけでなく、目次や奥付に使われている明朝体が目を引きます。どこにでもあるようで、大きさや位置を徹底的に「設計(デザイン)」された明朝体の文字は、強烈な存在感を放ち、他の書体では出し得ない味わいを生みます。本というものが背負う意味の大きさが、この本に印刷された文字のすべてから感じられます。

2017.02.16
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# by mura-bito | 2017-02-16 21:10 | Book | Comments(0)
Gacharic Spin – JUICY BEATS
ガチャっとBEST <2010-2014>

ガチャっとBEST <2010-2014>

Gacharic Spin


Gacharic Spinの「JUICY BEATS」は、インディーズで活動していた2011年に制作された曲です。僕は2016年にTOKYO DOME CITY HALLで行なわれたライブで初めて聴き、そしてすぐに気に入りました。シンセサイザーのリフが印象的なのですが、それでいてロック・サウンドは熱くて厚く、言うならばオルタナでしょうか。と思わせながら、ダンス・ミュージックにも通じるサウンド・メイキング。その中で鮮やかに舞うボーカルは、ボコーダーで加工され、紡ぐメロディは表情をくるくると変えます。無機質に響くかと思えば、息がかかるくらいに近くの囁きに聞こえる。切り口次第で楽しみ方は増えていく、おもしろい曲です。



Gacharic Spin – JUICY BEATS

ミュージック・ビデオがYouTubeにアップされています。光の使い方が印象に残る映像です。点滅するLEDライトをつけたグローブをはめて踊り、暗い部屋の中では、カラフルな光の点が生きているように舞います。別の場面では、投光器の光を背にして演奏する姿が鮮やかなシルエットを描きます。

当時のGacharic Spinにはボーカリストがいたのですね。パフォーマーもキーボード・プレーヤーもいない、オーソドックスなフォー・ピースのバンド。メンバーの変遷があるバンドですが、インディーズ時代の曲を集めたベスト・アルバムで過去の曲を遡って聴いてみると、サウンドの核は揺らいでいないと思えますね。もちろん演奏技術はプロフェッショナルの観点からすれば変わっているのでしょう。僕が好きなのは、バンドが生み出す音楽の「表情」です。喜怒哀楽に正直な人間のように、Gacharic Spinの曲にはカラフルな表情がありますね。バンドの姿が変遷しても、そのあたりは変わらず魅力的だと思います。

2017.02.03
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# by mura-bito | 2017-02-03 22:32 | Music | Comments(0)
藍井エイル – KASUMI
AUBE

AUBE

藍井エイル


2016年11月のライブ「Eir Aoi 5th Anniversary Special Live 2016 "Last Blue" at NIPPON BUDOKAN」で、藍井エイルの「KASUMI」を初めて意識的に聴いて、直感で好きだと思いました。それまで聴かなかったことを悔やみつつ、聴きたいと思ったときが自分にとっての旬だとも思うので、まさに今、現在進行形で堪能しています。

「KASUMI」は2枚目のオリジナル・アルバム『AUBE』で聴くことができます。また、短く編集されたバージョンではありますが、YouTubeではミュージック・ビデオが公開されています。全体的に緩めのテンポの中で、言葉の間隔が広がったり狭くなったりするのが心地好い。ラップのような雰囲気を醸しつつ、メロディをきちんと捉えて届けるボーカル。緩急をつけて淀みなく流れる歌に身を任せます。



藍井エイル – KASUMI

彼女の歌声には、鋭さと柔らかさ、直線と曲線が同居しています。それらが混ざって、胸を打ちます。霞のように消え入りそうな世界で、地に足の着いた歌声が力強く響きます。また、勢いで押す曲と言うよりは、音を置いていく感じがします。例えば、テクニカルに刻むギターは歌とリズムの間で、全体のバランスを取るように位置しています。

もうライブで聴くことは叶わない…と思うと残念ではありますが、それでもこうして「自分にとって新しい」曲に出会えたことは素晴らしい。音楽に限らず、ひとつひとつの物事がすべて無意味ということはないのだと思えてきます。どこから何が生まれるか、現実は常に予測の一歩二歩先を行きます。

2017.01.31
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# by mura-bito | 2017-01-31 21:46 | Music | Comments(0)
吉川景都 – 猫とふたりの鎌倉手帖 3
猫とふたりの鎌倉手帖 3

猫とふたりの鎌倉手帖 3

吉川景都


拡散力抜群の愉快なネコツイートでお馴染み、吉川景都さん。先日、漫画『猫とふたりの鎌倉手帖』の第3巻が刊行されました。第1巻では夏、第2巻では秋というように季節が巡り、そして今作では冬が到来します。

冒頭から雪が降り積もり、一冊を通じて鎌倉における冬の生活を描きます。何げない日常に転がる小さな発見や驚きを丁寧にすくい取り、ふたりの気持ちの交換を描くのが巧みだなあと思います。そして、ハツ、ミノ、ぎあら、ユッケ、サンチュという5匹のネコたちは冬でも揺るがない独自のスタンスを貫きます。まあ、ネコですから…

『猫とふたりの鎌倉手帖』の本編は紙の雑誌に連載されており、一方で番外編(『猫とふたりの鎌倉手帖 猫の巻』)もWeb版に連載されていました。猫の巻は2016年12月で終了しましたが、本編はもちろん続いています。1/20には新たに「コミックバンチweb」というサイトがオープンし、本編が第1話から順にアップされていくようです。

コミックバンチweb:猫とふたりの鎌倉手帖

冬のネコはこたつとともに生きています(偏見)。こたつで丸くなったり、暑くなったら外に出てきて畳に寝そべったり、あるいはこたつ布団にもたれるように横になってみたり。こたつを巡るネコのポジション取りは、変幻自在の神出鬼没。先に占拠されたら人間はその間を縫って足を置かねばならないし、先にこたつに入っていたとしても明け渡しを執拗に要求されたら、幾許かの抵抗はできたとしても、結果的には屈して場所を譲らざるを得ない。こたつはネコの城なのです…

inthecube – 吉川景都 – 猫とふたりの鎌倉手帖 1
inthecube – 吉川景都 – 猫とふたりの鎌倉手帖 2


2017.01.26
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# by mura-bito | 2017-01-26 21:36 | Visualart | Comments(0)
[PART2] オノ・ナツメ – ACCA13区監察課 1
ACCA13区監察課 1

ACCA13区監察課 1

オノ・ナツメ


[back to PART1] 飄々とした佇まいで、往来の中や広場のど真ん中で煙草を吸うジーン。この世界では、煙草には高額の税金が課されており、金持ちの道楽として認知されています。ACCAのサラリーは薄給で知られており、少なくともジーンのように気ままに煙草を吸えるものではない。一体どのような生活をしているのか、人々は憶測を重ね、煙草をふかす彼の姿を眺めます。

最初、煙草はただの小道具として、ジーンのキャラクター設定のひとつとして登場します。やがて重要な役割を担うことになり、物語を読み解く鍵として機能します。監察課副課長として行く先々で煙草を取り出し、火を点ける。彼が使うライターには、ACCAの名の由来となったこの世界の鳥「アッカ」が描かれています。



ACCA13区監察課

第1巻では、ジーンは13区のうち「ファーマス区」と「バードン区」を視察します。ファーマスは広大な農地を持つため農業生産に優れており、ドーワー王国の食糧庫とも言えます。一方、バードンは首都の機能も持ち合わせ、中央議会もACCA本部もあります。ファーマスはアメリカの農村のような風景が広がるのに対して、バードンはニューヨークのマンハッタンのように現代的なビルが立ち並びます。

各区を視察するジーンを追いかける物語は、「視る」側のジーンが「視られ」て、いつしかさまざまな思惑に巻き込まれていく様子を描きます。ページを繰った瞬間から、結末に向かって伏線が張られていきます。それらの間にミッシング・リンクを見出し、読み解いてみるのもおもしろいと思います。すべての謎が解き明かされた今だからこそ、各所に置かれた布石をミステリー感覚で楽しむことができます。そしてもちろん、オノ・ナツメの独特の絵柄とそこに漂う雰囲気もまた素晴らしく、楽しみは尽きない作品だと思います。

2017.01.24
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# by mura-bito | 2017-01-24 21:38 | Visualart | Comments(0)
[PART1] オノ・ナツメ – ACCA13区監察課 1
ACCA13区監察課 1

ACCA13区監察課 1

オノ・ナツメ


オノ・ナツメの『ACCA13区監察課』という漫画を読みました。流れているアニメを偶然目にして、原作も読んでみようと思い立ったのですが、こういうときにKindle版は便利ですね。あれよあれよと言う間に最終巻まで読み終えました。漫画自体は2016年12月に刊行された第6巻で終了し、2017年1月からはアニメがスタートしました。

物語の舞台は架空の世界にある「ドーワー王国」。国は13の「区」から構成されており、それぞれが独自の文化を持ち、自治区として治められています。例えば北に位置する区は雪深く、強い酒で身体を温めるのを好みます。西端の区では、領地に多くの島を含み、漁業が盛んです。南方には温暖な気候の区があり、それゆえか平均寿命が高い。広大な砂漠の中で洞窟に街を作って暮らす区もあれば、ギャンブルに人生を捧げる人々が集まる区もあります。13色に塗られた区は、ひとつの国が孕む多様性を示しているかのようです。



ACCA13区監察課

13区はかつて独立した国でした。あるときにドーワー王国としてひとつに束ねられたものの、その後、クーデターによって分裂の危機が訪れます。分裂を防ぐために区ごとの自治が認められ、中央の政治は各区の代表者からなる議会で行われることになり、王室は象徴的な存在となりました。そして、警察、消防、医療などの公共的な機能は統一した組織のもとで運営されるようになりました。その組織が「ACCA(アッカ)」であり、議会からは独立した機関として、国民の生活に根差してきました。

主人公の「ジーン」は、首都に置かれたACCA本部の「監察課」に勤める青年です。監察課のメンバーは、本部と各区に駐在しています。派遣された監察課のメンバーは、不正などを防止するために各区のデータを管理して本部に送っています。そして、それらのメンバーが適切に業務を行なっていることを確かめるのがジーンの仕事です。副課長の肩書きを持ち、不定期に各区を視察して、報告書を作成しています。そんな彼の指には、いつも煙草が挟まっており、ゆらゆらと煙が立ち上ります。人々は彼のことを「もらいタバコのジーン」と呼びます。[to PART2]

2017.01.23
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# by mura-bito | 2017-01-23 22:01 | Visualart | Comments(0)
山田 怜 – 鳴沢くんはおいしい顔に恋してる 3
鳴沢くんはおいしい顔に恋してる 3

鳴沢くんはおいしい顔に恋してる 3

山田 怜


『鳴沢くんはおいしい顔に恋してる』の第3巻が刊行されました。「おいしい顔」を見るのが好きな高校生「鳴沢くん」が、そのため「だけ」に料理を作り、振る舞う物語。第3巻の前半は作品のメイン・テーマである「おいしい顔」にフォーカスした、コミカルな話を集めています。一方、後半ではシリアスな雰囲気が漂いますが、その大きな要因は登場人物たちの過去が描かれていることでしょう。

http://www.zenyon.jp/lib/top.php?id=102

額に残る大きな傷跡が彼の過去を物語ります。そのような傷を彼は何故負ったのか、それは彼の心に何を残したのか。傷跡について鳴沢くんはどのように思っているのでしょうか。彼は「ジュリエッタ」をはじめとした人々に出会い、「おいしい顔」を通じて交流することで少しずつ変わってきました。そうした中、第3巻で語られた「今まで起こったこと全部、忘れなくて済む」という言葉が印象的です。傷を忘れないための傷跡。

また、第3巻の最後ではジュリエッタの過去も描かれます。彼女はイタリアから来て鳴沢くんの家にホームステイしているのですが、日本に興味を持った原点、そして彼のことを気遣う背景が浮かび上がります。「おいしい顔」を介して触れる互いの心は、それぞれの記憶につながっています。

シリアスな展開は「おいしい顔」とは遠いようにも思えますが、どのような話題が展開されても「おいしい顔」は物語のコアとして機能します。闇から引き戻す「救い」になることもあれば、誕生日を飾って闇を照らすこともあります。さまざまな「おいしい顔」が描かれる様子は、さながら花咲く庭です。
2016.12.28
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# by mura-bito | 2016-12-28 23:01 | Visualart | Comments(0)

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