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高野 雀 – It’s your (new) ID.

あたらしいひふ

高野 雀


高野雀さんの単行本『あたらしいひふ』に収録されている「It’s your (new) ID.」は、自分を規定するものの自覚や揺らぎ、交差を描く物語です。同じ学校に通ういくつかの男女ペアが主役となってそれぞれの話が展開され、それぞれのIDとnew IDが描かれます。

自分を規定するものに対する葛藤は思春期のテーマになりがちですが、この物語ではすでに受容されていて、むしろ客観的に俯瞰的に捉えています。理想と現実の乖離に苦しむというよりは、冷静に見つめている姿が印象的です。その中でも心の揺れ、感情の起伏はあるわけで、まったくの無風というわけでもないのですが、そうした揺らぎすらも、全体に漂うニュートラルな空気に呑み込まれていきます。

◆◆◆

例えば、身体中にほくろのある少女が登場します(サブタイトル「mole」)。夏になると目立って好奇の目で見られるから嫌いだけれど、なんとなく折り合いをつけて生きている。自らの特徴のひとつですが、肯定も否定もしきれません。あるとき、同じクラスの少年がそのほくろを「星みたいでかっこいいよね」と言って話しかけてきます。彼は彼女のほくろから宇宙を漂う無数の星をイメージし、彼女に惹かれています。二人が付き合うようになってしばらく経ったある日、彼女が熱心に話している中、彼はそっと彼女の手を取ります。重ねた手に自分の心を委ねるようにして、彼女の声に耳を澄ませながら、彼は自らのイメージに広がる宇宙を漂います。

また、背中に「見えない大きな刻印」(斑のようなもの?)を持つ少女は、時折うんざりしながらも、淡々として生活を送っています。彼女は自分を鹿のようだと思い、鹿を抱え、鹿に囲まれるファンタジーまで思い描きます。一方、アニメのキャラクターに心酔する少年は、その少女と学校ですれ違って、キャラクターの抱き枕からはしない、自らが求めていた匂いに触れます。そして、放課後の教室で少女の首筋の匂いをかがせてもらう少年は、抱えていたものが崩れていくのか、やがて涙をこぼします。エキセントリックな展開に戸惑いながらも、二人のIDが交わる様子が印象に残ります(サブタイトルは「flavor」)。

◆◆◆

先生が生徒たちに向かってcomplexとcomplicatedの違いを解説する場面があります。どちらも「複雑な状態」を表わすものの、厳密にいうとニュアンスが異なります。作中でも挙げられているhousing complexが「団地」であるように、complexは「関連する要素の集合」というニュートラルな状態を示しています。一方、complicatedは厄介な問題を持った複雑さ、もつれた糸のような「解決するのが難しい」状態を示します。なお、complexは「編む」、complicatedは「折り重ねる」という意味の言葉をルーツに持ちます。

「It’s your (new) ID.」で描かれているのは、complicatedというよりはcomplexの状態なのだと僕は解釈しました。少年少女のIDが交錯する様子は「解決すべきこと」ではないし、自らのIDについて悩むことはあってもそれがクリティカルというわけでもない。各自のIDどうしが接触したとき、衝突ではなく併存が描かれます。一人ひとりが各自のIDを持って存在していることは、それこそ団地のようなものなのかもしれません。そうした中で、new IDへの更新は人知れず、脱皮のように、あるいは細胞の入れ替わりのように行なわれていきます。淡々とした日常の中にときどきIDを更新させるような出来事があり、同じような温度で更新は繰り返されるのでしょう。
2017.11.20
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by mura-bito | 2017-11-20 22:09 | Visualart | Comments(0)
Rick Wakeman – The Six Wives of Henry VIII
『The Six Wives of Henry VIII(ヘンリー八世の六人の妻)』は、1973年にリリースされたRick Wakemanのソロ・アルバムです。Rick Wakemanは言わずと知れたYesのキーボード・プレーヤーですが、バンドの黄金期を築いたこの時期にバンドの活動と並行して本作を録音しました。

ヘンリー8世は16世紀前半にイングランドを治めた王です。父親のヘンリー7世は、15世紀末に薔薇戦争というイングランドの内乱を終結させてテューダー朝を開きました。ヘンリー8世は生涯で合計6回の結婚に及びましたが、アルバムのタイトルや曲名はその逸話をモチーフにしています。アルバムは6曲から構成され、曲名には結婚相手の女性の名前を冠しています。

『The Six Wives of Henry VIII』の録音には、Yesのメンバーを含む多くのミュージシャンが参加しています。そしてもちろん、印象に残るのはやはりシンセサイザーの音ですね。ミニ・モーグ・シンセサイザー、メロトロン、ハモンドなどのキーボードを中心に据え、周囲をテクニカルな演奏のロック・サウンドで固めたインストゥルメンタル作品であり、1970年代初期に活躍していたシンセサイザーの音を、これでもかというくらい存分に楽しめます。
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Yesのアルバム『Close to the Edge』を匂わせるサウンドやフレーズが随所に見られますが、やはりRick Wakemanだからということでしょう。とはいえ、曲によってはクラシックやジャズの雰囲気も感じますし、ファンクといってもいい曲もあるかなと思います。

「Anne of Cleves」で疾走するベースやパーカッションは、とても気持ち良いです。「Anne Boleyn ‘The Day Thou Gavest Lord Hath Ended’」ではシンセサイザーやピアノの音が少しずつ絡み合って、時に静謐に、時に妖しげに響きますが、特に3:30あたりから始まるミニ・モーグとピアノの競演は絶品だと思います。そして、最後の「Catherine Parr」に響き渡るメロトロンのコーラスに心が奪われます。

アルバム全体を通して、美しさと強靭さを兼ね備えたスリリングな演奏を堪能できます。あまり重くなく、むしろ明るさを感じる演奏なので、プログレのようなハードルの高さはないです。できればスピーカーを鳴らして、交錯する音の乱舞を楽しんでみてほしいと思います。

2017.11.14
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by mura-bito | 2017-11-14 22:15 | Music | Comments(0)
quasimode – Hi-Tech Jazz
quasimodeがカバーした「Hi-Tech Jazz」が、Flower Recordsというレーベルのコンピレーション・アルバム『Past and Future ~Flower Records 20th Anniversary~』に収録されています。配信(ダウンロードならびにサブスクリプション)でも聴くことができます。
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quasimodeが演奏する「Hi-Tech Jazz」は2種類あります。ひとつは、matzzさんが選曲した『SPUNKY! - mixed by Takahiro “matzz” Matsuoka (quasimode)』に収録されたバージョン。もうひとつが、quasimodeの名義でリリースしたアナログ盤に収録された新録バージョンです。本作に収録されているのは後者の方です。

新録の「Hi-Tech Jazz」は、ライブのオープニングを思わせるドラムとパーカッションの演奏から始まります。ループする心地好いリズムを全身に浴びながら記憶を巻き戻します。照明がメンバーを捉え、「どの曲が始まるんだろう?」と想像を巡らせるときの、あのわくわくした気持ちを思い出します。キックとハイハットとスネアとコンガが疾走し、それらがカット・アウトした直後にベースとピアノが飛び出す展開に心が震えます。今にもmatzzさんの「Yes! quasimode!」という煽りが聞こえてきそうです。
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ピアノ、パーカッション、アコースティック・ベース、ドラムスのカルテットに、ホーン・セクションが加わるという、quasimodeの基本スタイルを味わえる編成です。エレクトリック・ピアノやエレクトリック・ベースの場合もあり、ボーカルやラップが加わることも多いのですが、僕は最初にこのスタイルに魅力を感じて、それから他のパターンをどんどん聴いていきました。僕にとってのquasimodeに関する記憶の出発点が浮かぶ、そういうサウンドです。

アナログ盤の「Hi-Tech Jazz」は2011年のクリスマス頃に購入して聴いていたので、もう5年以上が経っているわけですね。配信はおろかCDにすらなっていない曲は、聴く機会が著しく減少します。こうしてサブスクリプションで聴ける状態になったことは、聴き手としては素直に嬉しい。音楽に出会いなおして新たな気持ちで聴くというのも、そこそこ長く音楽ファンをやっていると訪れる楽しい時間です。

2017.11.06
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by mura-bito | 2017-11-06 21:42 | Music | Comments(0)
ORESAMA ワンダーランドへようこそ ~in Shibuya O-WEST~
ORESAMA ワンダーランドへようこそ ~in Shibuya O-WEST~
2017-10-21 at TSUTAYA O-WEST
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ORESAMAのライブ「ワンダーランドへようこそ ~in Shibuya O-WEST~」が開催されました。ORESAMA(ボーカルぽん、ギター小島英也)とサポートメンバー(DJモニ子、ベース三浦光義)の4人に導かれ、音楽が生み出すワンダーランドに飛び込んだ1時間半。「楽しい!」と思える瞬間が何度も訪れる音楽体験でした。

僕がORESAMAの音楽を聴き始めたのは今年、それも半年ほど前のことですが、ライブでは初めて聴く曲でもすぐにリズムに乗れて、歌も音も存分に楽しむことができました。ライブは演奏とMCでシンプルに構成され、視覚的な演出はステージ後方のスクリーンに大きく映し出されたアニメーションと、レーザーを盛り込んだライティングでした。シンプルでありながら、目にも耳にもボリューム感のあるライブだったと思います。



Music video by ORESAMA performing ワンダードライブ

サウンドは、キック・ハイハット・スネアの音を爆音で鳴らしつつ、録音したシンセサイザーやストリングスなどの音を重ね、そこにベースとギターの生演奏を重ねる、というスタイルでした。キックの音はとても分厚くて力強く、全身で感じることができました。歌声は柔らかく、ギターはファンク系の要素が強いため、全体として「EDMにポップスやファンクを絡ませたダンス・ミュージック」という印象を受けました。

シングル曲「ワンダードライブ」や「Trip Trip Trip」はもちろんのこと、数日後にリリースを控えていた「流星ダンスフロア」も聴けました。シングルに収録された「『ねぇ、神様?』」、「耳もとでつかまえて」、「ヨソユキノマチ」などが披露されます。また、以前リリースした「乙女シック」、「オオカミハート」、「銀河」といった曲も、切ないメロディとともに会場を盛り上げます。



Music video by ORESAMA and ELEVENPLAY performing Trip Trip Trip

中盤の折り返し地点では、ステージにDJモニ子が残り、「Waiting for...」などのORESAMAの曲をかけて会場を盛り上げます。キックの音を強めに出して、その熱気はまさしくEDMのライブでした。そして、聞き覚えのあるメロディが飛び出したと思ったらONE III NOTESの「Shadow and Truth」がかかりました。ORESAMAを知るきっかけになったこの曲を大音量で聴けたのが嬉しい。

メンバーがステージに戻ってきます。DJタイムの熱気と音の余韻が残る中でスタートしたのが「流星ダンスフロア」です。YouTubeで聴いていたときにもこれは盛り上がるだろうと思っていましたが、予想どおりの……否、予想を超えた盛り上がりを見せました。まさしくディスコ・タイム・マジック。さらに間奏でベースとギターがソロを披露して観客を煽ります。



Music video by ORESAMA, DJモニ子 and ELEVENPLAY performing 流星ダンスフロア

スクリーンにORESAMAではお馴染みのアニメーションが映し出されます。CDのジャケットやミュージック・ビデオに使われているイラストやアニメーションは、イラストレーター「うとまる」が描いています。ポップでカラフルなキャラクターとなったORESAMAの2人がスクリーンの中で躍動し、ダンサブルな音を盛り上げます。音とともにORESAMAの空間、ORESAMAの世界を作り上げていました。

ORESAMAの2人がMCで話していたように次のライブも決まっており、そして会場のサイズは着実に大きくなっていきます。迅速な展開に2人も驚き、興奮しているようでしたが、聴き手からすれば広い場所で演奏している姿は容易にイメージできます(そのうちパフォーマーが入るかもしれないし、そうなればELEVENPLAYとの共演も実現するかも…観たい…)。どれだけ大きなキャパシティであっても、きっとそこをダンスフロアに変えてみせることでしょう。今後の展開がとても楽しみですね。
2017.11.01
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by mura-bito | 2017-11-01 22:02 | Music | Comments(0)

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