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音楽と物語に関する文章を書いています。
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30th FINAL 04: HERE, THERE & EVERYWHERE
TM NETWORK 30th FINAL

TM NETWORK 30th FINAL

TM NETWORK


オープニングから立て続けにダンス・ミュージックやロックが披露され、会場は熱で満たされます。その熱をクールダウンさせるのが、木根さんのカウントで始まるミディアム・テンポの「HERE, THERE & EVERYWHERE」です。

温かみのあるメロディは、手を重ねた温かみに似たものがあります。冬の夜空をモチーフにした歌詞とメロディが一体化し、心の隅々まで満ちていきます。音符がひとつひとつ身体に染み込み、芯から温かくしてくれますね。天を仰げば満天の星空が広がり、空を横切る流れ星まで見える。聴く人を冬の夜空のもとに連れていってくれることでしょう。

***

ソフト・シンセの音に重なるギターは、サウンドに輪郭が生まれ、柔らかな表情を曲に与えます。木根さんがアコースティック・ギターを弾くことで、冬の冷たさや星空の静謐さが伝わってきます。サポート・ギタリストの二人(葛城哲哉・松尾和博)が重ねるエレクトリック・ギターは、ふとした瞬間に出会う流れ星のようです。

ドラムを叩く阿部薫、パーカッションを叩くRuyというふたりのミュージシャンがリズムを支えます。スネアの音が印象に残るリズムはパーカッションを加えることで、聴き手の心をほぐし、サウンドに溶け込ませます。良質なポップスは、構えることなく音に身を委ねることができますね。メロディの魅力を噛みしめ、味わい、歌詞の世界に没入できます。

***

歌詞に登場するのはギリシア神話の神々、アルテミスとオリオンです。冬の夜空を見上げ、星座が織り成す物語を、地上でなぞります。アルテミスとオリオンの話は悲恋ですよね。この曲で綴られる物語もまた、アルテミスとオリオンをなぞるかのように、寂しさが漂う。メロディがとてもポップで柔らかいだけに、歌詞に漂う悲哀さが一層目立ちます。

あの人は同じ星空、同じ星座を見上げている…と信じている。隣で見ることが叶わないならば、せめて同じ空を見ていると信じたい。未練がましく記憶に縛られるのは冬の夜空のせいか、どうしようもない別れ方のせいか。冬はやがて春へと移り変わります。冷たい空気に満ちた空を見上げながら、春が訪れたときのことを思う。春になったら雪がとけるように、思い出も、未練も消えるのかもしれません。春になれば、前に進めるのでしょうか。

***

二番のサビで音が消えます。ウツはマイク・スタンドの前から離れ、観客席をぐるりと見渡します。木根さんと小室さんのコーラスが響き、観客も一緒にサビを歌います。AメロもBメロも親しみやすく、サビは歌うともっと心地好くなります。メロディの良さがこの曲のコアであり、メロディを音が引き立てます。その中には十代の小室さんが書いたメロディが含まれる、とされています。

十代のころ、小室さんは学校の授業で作曲する機会があり、教師から「この中に将来作曲家になるかもしれない人がいる」と言われ、その才能を認められたとのことです(Eテレの『ミュージックポートレイト』より)。当時から作曲のセンスは突出していたということでしょうか。近い時期に書かれたメロディを「HERE, THERE & EVERYWHERE」で体験することができます。

INTRO
JUST LIKE PARADISE 2015/RHYTHM RED BEAT BLACK/CHILDREN OF THE NEW CENTURY 2015
HERE, THERE & EVERYWHERE/SCREEN OF LIFE/Birth
CAROL 2015 I
A DAY IN THE GIRL'S LIFE/CAROL (CAROL'S THEME I)/GIA CORM FILLIPPO DIA
CAROL 2015 II/IN THE FOREST/CAROL (CAROL'S THEME II)/JUST ONE VICTORY
INTERMISSION
月はピアノに誘われて/あの夏を忘れない/TETSUYA KOMURO SOLO -30th FINAL-/GET WILD 2015
WE LOVE THE EARTH/BE TOGETHER/I am/FOOL ON THE PLANET/ELECTRIC PROPHET
OUTRO

2016.01.23
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by mura-bito | 2016-01-23 17:02 | Music | Comments(0)
宮下奈都 – 羊と鋼の森
羊と鋼の森

羊と鋼の森

宮下奈都


ジャズ・ピアニストの上原ひろみは、日本でコンサートを開催するときは必ず小沼則仁という調律師に調律を依頼するそうです。あるとき、コンサートのMCでベーシストやドラマーの紹介に加え、小沼さんの名前を挙げて感謝の言葉を重ねました。

宮下奈都の『羊と鋼の森』という小説は、調律を物語の軸にしています。僕は上原ひろみの演奏を思い出しながらページを繰りました。上原ひろみの演奏は、もちろん彼女自身の技術や情熱によって成り立っていますが、こうして調律を意識すると、小沼さんの調律、そして小沼さんへの信頼があってこその演奏なのではないかと思えてきます。ピアニストの向こう側には調律師がおり、ピアノの中には調律の存在があります。

***

主人公は、高校生のときに学校のピアノを調律しに来た調律師と出会います。その調律を目の当たりにすることで、彼の人生は大きく変わります。調律師になることを志し、やがてその調律師と同じ職場で働くようになります。特別な才能を持っているわけではない彼が、ピアノと向き合うことで、さまざまな人と向き合うことで、調律とは何か、調律師とは何かに気づいていきます。

『羊と鋼の森』はひとりの調律師の成長物語であり、それと同時にひとつの長大な曲であると言えます。

音符が五線譜で舞うように、言葉が心地好く流れていきます。文字を読んでいるのか音を聴いているのか分からなくなり、感覚は交錯して溶け合います。文字を聴き、音を読む。音楽的な言葉だけでなく、物事を描写した言葉すらも音楽的に奏でられます。淡々と綴られる言葉の群れは、音を空間に馴染ませる調律そのものではないかと思います。

2016.01.21
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by mura-bito | 2016-01-21 18:31 | Book | Comments(0)
30th FINAL 03: CHILDREN OF THE NEW CENTURY 2015
TM NETWORK 30th FINAL

TM NETWORK 30th FINAL

TM NETWORK


JUST LIKE PARADISE 2015」、「RHYTHM RED BEAT BLACK」、そして「CHILDREN OF THE NEW CENTURY 2015」と続く序盤の三曲は、このライブにおけるポイントのひとつです。ダンス・ミュージックとロックというふたつの柱を提示することで、TM NETWORKが現在進行形であることを証明します。

1987年にリリースされた曲を2015年の感性でアップデートした「CHILDREN OF THE NEW CENTURY 2015」は、エレクトロとロックの要素を内包し、渾然一体となったアレンジで披露されます。エレクトロとロックは相反するものではなく、かといって仲良く手を取り合うものでもありません。せめぎ合って高め合う、と表現する方がより近いかと思います。

***

エレクトロとロックの混合スタイルは、近年のTM NETWORKの特徴でした。2014年に『DRESS2』というアルバムを出し、とりわけ「COME ON LET'S DANCE 2014」や「BE TOGETHER 2014」などでEDMとロックのミクスチャーを表現しました。同年の後半に行なわれたツアー「TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30」では、原曲はハード・ロックだった「TIME TO COUNT DOWN」を大きくEDMに寄せました。

これらのミックスで感じるのは、ロック・スターの肉食的なサウンドとも、EDMのパーティー感あふれるサウンドとも異なる、ということです。エレクトロとロックがせめぎ合い、互いを高め合うサウンドこそがTM NETWORKらしいエレクトロであり、TM NETWORKらしいロック。TM NETWORKを特定のジャンルにカテゴライズすることは難しく、その雑食性がTM NETWORKのアイデンティティなのでしょう。

***

アルバム『humansystem』の1曲目として世に出た「CHILDREN OF THE NEW CENTURY」は、ジェット・コースターのようなダイナミックな展開で聴き手を翻弄します。音が波のように押し寄せる「動」から、音が抜けてボーカルだけになる「静」になることが何度かあり、急転直下、音の落差がとても印象に残ります。沈み込んでまた浮上し、また沈むといった上下動を繰り返します。

2013年のコンサート「TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation-」では、オープニングSEとして使用されました。音は完全にEDM仕様。ボーカルの入っていないインストゥルメンタルだったこともあり、シンセサイザーのリフがこれでもかというくらい強調されていました。そして2015年はロックの側に再び寄り、バンド・サウンドを前面に押し出しています。1987年に回帰しながら、2015年の音をふんだんに盛り込みます。JD-XAの音がギタリストたちの音と火花を散らし、ロック・スタイル全開のアレンジを盛り上げます。

***

「CHILDREN OF THE NEW CENTURY 2015」の途中では、火球や火柱といった特殊効果による演出が盛り込まれています。爆音や火柱といった特殊効果は2012年のコンサート「TM NETWORK CONCERT -Incubation Period-」から活用され、彼らのコンサートの特徴のひとつとなりました。小室さんのシンセサイザー・パフォーマンスを視覚的にバックアップしたり、ストーリーにおいて重要な役割を担ったりしてきました。

間奏でウツが観客に背を向けてステージ後方に向かい、スクリーンの前に立って、両手を挙げます。すると両側から火球が吹き上がります。再び両手を挙げると、また火球が吹き上がります。次に、片手を挙げて振り下ろすたびに、左右から火球が立ち上がります。最後に、ウツは振り返り、両手を天に向けて勢いよく掲げます。左右から複数の火柱が一気に吹き上がります。炎が音に勢いを与え、曲はそのままエンディングまで突き進みます。

INTRO
JUST LIKE PARADISE 2015/RHYTHM RED BEAT BLACK/CHILDREN OF THE NEW CENTURY 2015
HERE, THERE & EVERYWHERE/SCREEN OF LIFE/Birth
CAROL 2015 I
A DAY IN THE GIRL'S LIFE/CAROL (CAROL'S THEME I)/GIA CORM FILLIPPO DIA
CAROL 2015 II/IN THE FOREST/CAROL (CAROL'S THEME II)/JUST ONE VICTORY
INTERMISSION
月はピアノに誘われて/あの夏を忘れない/TETSUYA KOMURO SOLO -30th FINAL-/GET WILD 2015
WE LOVE THE EARTH/BE TOGETHER/I am/FOOL ON THE PLANET/ELECTRIC PROPHET
OUTRO

2016.01.16
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by mura-bito | 2016-01-16 15:15 | Music | Comments(0)
30th FINAL 02: RHYTHM RED BEAT BLACK
TM NETWORK 30th FINAL

TM NETWORK 30th FINAL

TM NETWORK


淡々と刻まれる乾いたキックの音を、トーキング・モジュレーターで歪ませたエレクトリック・ギターの音が侵食し、ステージとスクリーンが紅く染まります。トーキング・モジュレーターによって変化したギターの音は、狂気を感じさせる歪みを生みます。音は空間をも歪ませ、赤と黒が交わる世界に観客を引きずり込みます。

TM NETWORKの曲のうち、トーキング・モジュレーターが特徴的な曲と言えば「RHYTHM RED BEAT BLACK」です。1990年のアルバム『RHYTHM RED』に収録され、のちにシングル・カットされました。ライブでは、TMNが終了する1994年まで頻繁に演奏され、2004年の20周年プロジェクトでも披露されました。そして、再び10年のインターバルを挟み、「TM NETWORK 30th FINAL」でセット・リストに加わりました。

***

基本的なカラーは共通するものの、ライブのたびに「RHYTHM RED BEAT BLACK」のアレンジは印象が変わり、新鮮な気持ちにさせてくれます。リリース当時のツアー、1994年の「終了」コンサート、2004年の「DOUBLE-DECADE」コンサートと、いずれもシンセサイザーの音がアップデートされ、曲に新たなスタイルを吹き込みました。そして2015年はソフト・シンセの音で曲の大部分を構築しながら、新しく導入したハード・シンセの音が曲に厚みを与えます。

小室さんは三方に配置したソフト・シンセをリアルタイムでコントロールしながら、背後にセッティングしたRoland社のJD-XAを弾きます。JD-XAがコンサートで使われるのは、この「TM NETWORK 30th FINAL」が初めてでした。Access社のアナログ・シンセサイザーであるVirusシリーズにも似た、太くて厚い音を出します。サビ前のブリッジやアウトロで登場するJD-XAの音が、ギターと火花を散らしながら音の饗宴を彩ります。

***

スクリーンには白く光る点が規則正しく並び、点は拡大と縮小、表示と非表示、整列と分散を繰り返します。白い光は赤い光に入れ替わり、黒いスクリーンを紅く染めます。具体的な事物を描くのではなく、点の集合体が見せるライト・アートです。光の点が動くことは光を見せると同時に、光を映さない黒い部分を強調するかのようです。

一貫して赤い照明がステージを覆いますが、異なる角度から青い照明を当てることで、艶のある光、艶のある赤の世界が浮かび上がります。Bメロとサビをつなぐブリッジでリフレインする♪It's called RED♪に合わせて赤い光がステージを染め上げ、♪It's called BLACK♪では白い光がストロボのように明滅することで黒い空間を生み出します。

***

歌詞に組み込まれた数々の言葉は、現実感を狂わせ失わせ、映画のようなフィクショナルな世界を描きます。浮かび上がるのは男女の危うい関係です。ふたりは「光と闇が揺れる隙間」に潜り込み、ひとしきり世界から遠ざかります。

夜が終わらないことを信じながら、終わりに向けて進み続ける。ふたりは手を取り合っているようで、別々の手を握っているのかもしれません。ふたりを包むのは赤の世界か、黒の世界か。どこにもたどり着かない閉塞感をかき分けて、何を見つけるのか。華美な言葉を積み上げた先に待っているのは崩落か、夢見た世界か。

***

ダイナミックに音が交錯するアウトロ。「RHYTHM RED BEAT BLACK」のテーマ・メロディが繰り返されます。音は重なって広がったと思うと、温度が下がるように薄くなり、そして再び厚みを増します。色気のあるリズムに奔放にうねるシンセサイザーが重なり、歪むギターが重なって音はどんどん熱を帯び、まるで溶鉱炉のように赤く熱く光を放ちます。

JD-XAが最後の音を吐き出すと、赤と黒の世界は消え、すべてが幻だったかのように音の記憶だけを残します。観客を包み込むのは、どこか柔らかい印象を与えるベースの音に、静謐なシンセサイザーの音が重なるサウンドです。スクリーンに灯る光の点は雪が降るようにはらはらと舞い、赤く染まった先刻とは対極の世界を描きます。音は淡々とループし、いつまでもこの中にいたいと思わせた頃、そっとはじけ、消えていきます。

INTRO
JUST LIKE PARADISE 2015/RHYTHM RED BEAT BLACK/CHILDREN OF THE NEW CENTURY 2015
HERE, THERE & EVERYWHERE/SCREEN OF LIFE/Birth
CAROL 2015 I
A DAY IN THE GIRL'S LIFE/CAROL (CAROL'S THEME I)/GIA CORM FILLIPPO DIA
CAROL 2015 II/IN THE FOREST/CAROL (CAROL'S THEME II)/JUST ONE VICTORY
INTERMISSION
月はピアノに誘われて/あの夏を忘れない/TETSUYA KOMURO SOLO -30th FINAL-/GET WILD 2015
WE LOVE THE EARTH/BE TOGETHER/I am/FOOL ON THE PLANET/ELECTRIC PROPHET
OUTRO

2016.01.11
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by mura-bito | 2016-01-11 17:17 | Music | Comments(0)
AAA – Joy to the love (#globe20th -SPECIAL COVER BEST-)


AAA – Joy to the love

カバー・アルバム『#globe20th SPECIAL COVER BEST』に、AAAも参加しています。カバーしているのは「Joy to the love」。デビュー盤『globe』に収録された、実に陽気な曲です。歌詞は微妙に倦怠感が漂い、メロディのポップさとのミスマッチがおもしろい。深刻な問題ではないけれど、日常の中で引っかかる閉塞感のようなものを感じます。そうした閉塞感を抱えたまま10代、20代を過ごしていく人々を描いたのでしょうか。

こうしてAAAがKEIKOの代わりにglobeを歌うのも、浅からぬ縁のような気がします。というのも、globeのデビュー20周年はKEIKOが歌えない状況で迎えました。『ミュージックポートレイト』(浦沢直樹さんとの対談を中心にしたEテレの番組)によると、KEIKOが入院していたときに小室さんは病院で曲を書かねばならなかったそうです。そのときに生まれたのがAAAの「SAILING」です。小室さんとAAAは、作家とシンガーという関係を越えたつながりを感じずにはいられません。

AAAの魅力のひとつは7人の声が交錯し、混ざり合うところでしょう。「WOW WAR TONIGHT」* をカバーしたときは男性陣の声を中心に構築されましたが、「Joy to the love」では女性陣が大きなウェイトを占めます。表を女性が歌い、男性は裏に回る。女性2人の歌が最も強く印象に残るのは確かですが、裏で歌う男性陣の歌声も心地好いと思いますね。

SKY-HIこと日高光啓のラップが活きる曲です。ラップはAAAの強みでもありますよね。僕は日本語ラップの中では彼のラップが一番好きです。小室さんのソロ・アルバム『Digitalian is eating breakfast 2』でゲスト・ラッパーとして参加した曲「Every」を聴いて、「これはいい」と思いました。彼のラップは、メロディや音を潰すことなくうまく乗る、馴染むのだと思います。「Joy to the love」ではマーク・パンサーのコピーではなく新たにリリックを書いて録音していますが、彼独特の声の重ね方がぴたりとはまり、曲を盛り上げています。

* inthecube: AAA – WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~

2015.01.09
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by mura-bito | 2016-01-09 16:55 | Music | Comments(0)
にがくてあまい レシピ72 あまからみぞれ餅
小林ユミヲさんが描く漫画『にがくてあまい』の第72話「あまからみぞれ餅」が公開されました。サイトがリニューアルして、これからもどんどん素敵な物語を届けてくれる…と思っていた矢先に飛び込んできたのは「もうすぐ終了」のお知らせ。なんてことだ…

けれども、始まりがあれば終わりがあるわけで、やはり物語にはしかるべきエンディングを与えてやる必要があります。新しい漫画を描きたいというユミヲさんの気持ちもあるかもしれませんしね。僕がファンになったのは約2年前ですが、随所で自分のターニング・ポイントとリンクしたこともあり、とても思い出深い作品です。終わるのが本当に寂しいのですが、その暁には完結を心から祝いたいと思います。

http://comic.mag-garden.co.jp/nigaama/

さて、第72話では、物語はクライマックスに向けてぐっと舵を切ります。前回は「マキ」の心に大きな波が立ちましたが、今回は「渚」が大きく揺さぶられます。主人公のふたりがそれぞれの問題に直面します。

今回のキーワードは「奇跡」。とても素敵な表現です。

後輩の「ばばっち」は、「マキ」と「渚」のふたりを自分にとっての奇跡だと表現し、「渚」も、「マキ」の存在は自分にとって奇跡だと言う。これまで積み上げられてきた物語を思い返せば、その言葉の価値はとても大きいことが分かります。「ばばっち」が過去の足枷から解き放たれたのはふたりのおかげだし、「渚」にとっては、「マキ」がそれまでの彼の世界、彼が抱えていた考え方を変えてくれました。

だからこそ、その「奇跡」を手放さないといけないと思うときの切なさや悲しさも大きくなる。

「渚」がゲイであることを知りながら「マキ」は彼を好きでいるし、同居している。「渚」も何だかんだ言いながら彼女と一緒にいることが自然になっていて、心地好く、そして助けられていると感じている。それこそが、女性嫌いの「渚」にとっての奇跡です。ふたりの心の交流は随所に描かれており、いわゆる愛の形というものはひとつではない、ということをつくづく思います。

そして今回、「ばばっち」に問われた「渚」は、ついに心の内を吐露します。「マキ」が望むようなことは何もしてやれない、子供も作ることはできない、一緒にいたいけどこればかりはどうしようもない、と。

どのような人にも、どのような関係にも、何かしらの問題はあります。『にがくてあまい』では「どうにもならない事情」と表現されます。他の人からしてみたら大きな問題ではないことも、当人からしたら大きいなんてことはよくありますし、外野には見えない、理解できない問題だってきっとある。それを抱えながら、ある人は達観するし、ある人は見ないふりをするし、そしてある人はどうすればいいか結論が出ず、ずっと思い悩みます。

最後に「渚」はビールを顔からかぶり、涙を隠します。その涙は何を意味するのでしょうか。「ばばっち」との会話から、何かを決意したのでしょうか。そして、物語はどのように進み、どこにたどり着くのでしょうか。固唾を飲んで次の展開を待ちます。

***

「どうにもならない事情」は形を変えて誰もが抱えていると思いますが、それとどうやって付き合い、折り合いをつけているのでしょうか。ひとりで抱えるのか、ふたりで共有するのか、あるいはもっと広い範囲の共通認識になるのか。完全無欠の正解はなく、どうするか考え続け、暫定解を出してアップデートし続けていくのでしょう。

たとえばふたりなら、一緒に抱えればいい、と僕は思っています。どれくらい重いのか、どれだけ抱え続ければいいか分からなくても、ひとりで抱えるよりも軽くなるし、抱えられる時間だって長くなる。ときどき降ろして休んで、もう一度抱えることもできる。そう思います。

2016.01.07
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by mura-bito | 2016-01-07 21:42 | Visualart | Comments(0)
30th FINAL 01: JUST LIKE PARADISE 2015
TM NETWORK 30th FINAL

TM NETWORK 30th FINAL

TM NETWORK


空に舞い、雲を突き抜け、地上に向けて落ちていくのは一本のバトン。潜伏者からのメッセージを携えたバトンは地球を駆け巡り、そして人間と人間をコネクトします。

***

エンジン音が鳴り響き、小型ジェット機のプロペラが回り始める。刻むリズムをプロペラが絡み取ります。やがてキックの音がソフト・シンセの音を巻き込み、コーラスを巻き込み、ひとつの曲が形作られます。機体は空へ空へと駆け上る。

このコンサートのために新たに録音された音源が流れます。音は層を成し、重なりながら、ひとつひとつが屹立します。キックの音が全体の印象を形づくり、そこにベースやスネアが絡み付きます。速すぎず、遅すぎず。絶妙なテンポで刻むリズムは観客の身体を疼かせ、心に火を灯します。

TM NETWORKにおいて独特のリズム・パターンを持つこの曲は、「JUST LIKE PARADISE 2015」です。音が導くテイクオフ、音の世界にいざなうテイクオフ。二十年の時を越えてモデル・チェンジした「JUST LIKE PARADISE 2015」がデビュー30周年企画の集大成であるコンサート「TM NETWORK 30th FINAL」の幕を開きます。巨大なLEDスクリーンに流れる映像に合わせ、オープニング用のSEとして会場に響き渡ります。

***

コーラス・パートは♪Just like paradise♪と♪Gonna take you to paradise♪を交互に歌います。その間を縫うように♪That's right!♪が繰り返し飛び出します。感情にフィルターをかけたような声は、クールなエレクトロニック・サウンドに組み込まれます。

声と音の絡み合いは、大人の色気と気怠さを漂わせますね。ダイレクトな言葉でパッチワークされた世界ではなく、経験とイメージが生み出す記憶の世界。ベタついていないのに、とはいえあっさりとしているわけでもない、曖昧な空気の中を漂うメロディ。霧のような雰囲気はオリジナルよりも濃くなり、聴き手を包みます。

男性の声が ♪Baby dance with me through the night♪ と誘うと、女性の声は ♪When you hold me close it's paradise♪ と、誘いに乗るような、腕からすり抜けるような言葉を返す。光の当たる半面では微笑みを浮かべ、しかし陰になる側では表情が消える。体温が感じられるくらいに近い距離で交わすサインは、交差するのか…すれ違うのか。

***

リズムの隙間からシンセサイザーのリフが流れ出てきます。ピアノの音で構築されたリフが観客をシンセサイザー・サウンドの世界に引きずり込みます。ソフト・シンセの太くて厚い音、イルミネーションのようにきらきらと輝く音、スクラッチ・ノイズのような音が織り成すサウンド・インスタレーション。

「JUST LIKE PARADISE 2015」は、1991年に発表されたオリジナルを2015年の音で再構築(リプロダクション)した曲です。よりアクティブに、よりダンサブルに音が進化しました。音が音を呼び、観客を次の音へ、また次の音へとエスコートします。音で魅せるステージ。

この曲はコンサートのオープニングを飾るSEに留まらず、TM NETWORKというミュージック・ファクトリーのエントランスでもあります。「TM NETWORK 30th FINAL」はTM NETWORKサウンドの展示会です。"FINAL" と銘打ちながらも、展示するのはその時点の最新かつ最高の音です。1991年に書いたメロディを2015年の感性と音で鳴らしながら、現在進行形のTM NETWORKサウンドに観客を誘い込みます。まるでパラダイスのように、音が満ちる世界に。 

***

機体は雲を抜け、青空を舞い、再び雲の塊を通り抜ける。空と大地の間に引かれた境界線をたどるフライトは、宇宙と地球をコネクトします。やがて潜伏者は、手にしたバトンをためらうことなく窓の外に放り投げます。

INTRO
JUST LIKE PARADISE 2015/RHYTHM RED BEAT BLACK/CHILDREN OF THE NEW CENTURY 2015
HERE, THERE & EVERYWHERE/SCREEN OF LIFE/Birth
CAROL 2015 I
A DAY IN THE GIRL'S LIFE/CAROL (CAROL'S THEME I)/GIA CORM FILLIPPO DIA
CAROL 2015 II/IN THE FOREST/CAROL (CAROL'S THEME II)/JUST ONE VICTORY
INTERMISSION
月はピアノに誘われて/あの夏を忘れない/TETSUYA KOMURO SOLO -30th FINAL-/GET WILD 2015
WE LOVE THE EARTH/BE TOGETHER/I am/FOOL ON THE PLANET/ELECTRIC PROPHET
OUTRO

2016.01.04
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by mura-bito | 2016-01-04 10:44 | Music | Comments(0)

fujiokashinya (mura-bito)
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