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音楽と物語に関する文章を書いています。
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CAROL2014 suite: In The Forest/Carol (Carol's theme II)
QUIT30

QUIT30

TM NETWORK


賑わいを見せる通りを歩き、人の波をかき分けるキャロル。物語はロンドンの一画から始まり、やがて舞台は彼女が住むバースに移り、そこから異世界に導かれます。1991年の4月、彼女は異世界からのメッセージを受け取り、それが何を意味するかわからないままに時を過ごします。いくつかの不思議な出来事を見聞きして、気持ちがざわつき、それが頂点に達したとき、彼女は期せずして異世界への扉を開きます。

異世界に広がる森の中を歩き回り、敵の居城に乗り込む過程で、キャロルは三人のキー・パーソンに出会います。キャロルと三人は力を合わせて、音を盗む魔物を打ち破ります。その三人は、キャロルが住む世界、すなわち地球では、「ガボール・スクリーン」という音楽グループとして知られていました。彼らは音を通じて別の世界にメッセージを送っていました。異世界で出会った三人が実はガボール・スクリーンであることを彼女が知るのは、この不思議な冒険が終わった後です。

◇◇◇

組曲の後半は「In The Forest」から始まります。軽快な音を響かせる曲は、冒険が始まったことを示すかのようです。暗い森の中でもキャロルの心は光を放っている。音が盗まれ、希望が奪われかけた世界。この世界のことを何も知らないキャロルは、持ち前の明るさを武器にして前に進みます。ここに住むものに出会い、その惨状を聞かされても、彼女の心に灯る火は消えません。そんな姿に励まされ、生き残ったものたちは音と希望を取り戻すために動き出します。

リズム・セクションのふたりが曲を支え、前に押し出しています。緩急のついた音の流れが気持ちいいんですよね。歌はリズムに乗り、勢いのあるところと緩やかに流すところを巧みに歌い分けます。メリハリをつけた舞台役者の身体コントロールのようです。ステージで役者たちがアクティブに動き回り、光が駆け巡るシーンが目の前に浮かびます。シリアスな演技の中にもコミカルな動きや表情を見せる一幕です。

◇◇◇

「CAROL2014」では、バンド演奏の中でシンセサイザーの音が際立ちます。それは小室さんと久保こーじさんのプロジェクト「tk-trap」でのアレンジを思い起こさせます。1996年に幕張メッセで行なわれたライブでは「CAROL」組曲が演奏されました。サックスやパーカッションを含むバンド編成に加え、三人のコーラス隊が英訳された詞を歌っています。多彩な音が交差して、ジャズかファンクかフュージョンか、表情は次々と変わっていきます。

ライブ盤を聴いたとき、全体的に乾いた音で構築されていて、その中でシンセサイザーの音が硬くて透き通っていると思いましたね。水晶のように光をたたえる鉱物。それまで聴いていたシンセサイザーは、紗のような硬さを持たない音であり、他の音に被せるものでした。シンセサイザーってこんなに硬かったかなと不思議に思ったものです。「CAROL2014」に感じる、硬くて乾いたシンセサイザーの音。その源流のひとつをtk-trapに見ることができます。

◇◇◇

組曲は最後の曲、「Carol (Carol's theme II)」を迎えます。最初は静謐な空気を漂わせながら、巨大な敵に立ち向かうキャロルの姿を歌います。突如として音は一転し、炎が立ち上がるかのように、盛り上がりを見せます。マーティ・フリードマンのギターが咆哮します。このパートを演出するために彼が選ばれたのではないかと思うほど、激しく、輝きを放つプレイです。シンセサイザーの鋭角的な音がギターと対峙します。戦いの様子を音で描く。

音の奔流が途絶えると、「In The Forest」の歌詞とメロディが再び姿を見せます。「In The Forest」では跳ねて勢いのあったアレンジですが、「Carol (Carol's theme II)」では、ぐっと柔らかくなっています。戦いが終わり、残された者の傷を癒すかのようです。ずっと空を覆っていた雲が少しずつ晴れ、光が差し込んできます。


2014.11.27
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by mura-bito | 2014-11-27 18:19 | Music | Comments(0)
Paramore – Hate To See Your Heart Break [feat. Joy Williams]


Paramore – Hate To See Your Heart Break [feat. Joy Williams]

Paramoreが2013年にリリースしたアルバム『Paramore』には、「Hate To See Your Heart Break」という曲が収録されています。ゆっくりと、柔らかく、優しく語る雰囲気の曲です。アルバムのデラックス版が出るにあたり、ボーナス・トラックとしてこの曲の新バージョンが収録されています。ゲストとして参加しているのはJoy Williams。JoyとHayley、二人の声が織り成す素敵なコラボレーションを楽しむことができます。

そよ風と太陽の光が差し込み、気持ちいい涼しさとあたたかさに包まれる、そんな部屋を想像しました。窓辺で丸くなって眠るネコ。ゆらゆらと揺れる光。きっと、それぞれが感じたことのある心地良さがあると思いますが、それをイメージしてみればいい。…そんな歌詞ではないのですが、音や声の雰囲気は、凝り固まった気持ちをほぐしてくれます。二人のハーモニーが生み出す心地良さに、そっと身を預けてみましょう。

2014.11.26
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by mura-bito | 2014-11-26 22:03 | Music | Comments(0)
Krewella – Say Goodbye


Krewella – Say Goodbye

Krewellaが新曲「Say Goodbye」を発表しました。ロックの熱と荒々しさを感じるアレンジです。ギターの音が乱舞して際立ち、途中から入るシンセサイザーのリフが追い風のように曲のスピードを上げていきます。ラップを絡めたボーカルは熱く、激しく吹き荒れる。かと思えば、ふと遠くを見るように、凪とも言うべき瞬間が訪れる。対極にあるものが同居するのがKrewellaの魅力です。

スネアとキックとベースの絡みが絶品ですね。立体的に配置されていて、組み付いたり距離をとって互いに高め合うリズム・パート。いいね、いいね。音がふっと途切れた後に、スネアとキックと一緒に鳴るベースがとてつもなく気持ちいい。周囲にノイズがない状態で聴いてみましょう。痺れるどころじゃない。

http://www.krewella.com/

折に触れ、KrewellaはEDMにロックを混ぜるアプローチを見せてきましたし、もともとJahanとYasmineにはロック・ボーカリスト然とした佇まいがありました。「Say Goodbye」では、ぐっとロックに寄りました。ギターやラップの雰囲気から、僕はLimp BizkitやLINKIN PARKのようなラップ・ロックを思い浮かべます。必ずしも順風満帆ではないようですし、タイトルも詮索したくなりますが、Yasmineが言うように "try and let the music speak" ですね。新曲はKrewellaをもっと聴きたいと思わせてくれる作品です。

2014.11.25
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by mura-bito | 2014-11-25 22:39 | Music | Comments(0)
CAROL2014 suite: A Day In The Girl's Life/Carol (Carol's theme I)
QUIT30

QUIT30

TM NETWORK


短く切り取られたソフト・シンセの音が、あちこちに散りばめられます。いくつもの音がキャンバスを埋め、絵を描いていく。聴き手を異世界に誘うようにギターが鳴ります。女性の声が織り上げるポエトリー・リーディング。組曲「CAROL2014」の幕を上げ、物語のプロローグを綴る曲「A Day In The Girl's Life」が始まります。

2014年に新たに録音されたウツの歌は、はっきりとした輪郭を浮かび上がらせ、ひとつひとつの言葉を丁寧につないでいきます。最初のフレーズを聴いたときから、強力な吸引力を感じます。物語の世界に、音の世界に、声の世界に引き込む。ソロ活動やU_WAVEというバンドで取り組んだ物語性の強いパフォーマンスが活きているのでしょうか。ウツの歌声は物語を紹介し、聴き手をエスコートします。

◇◇◇

「CAROL」という物語が生み出されたのは1988年。前年から行なわれていたライブ・ツアーの途中で、小室さんが「CAROL」の構想を木根さんに話し、二人の間でコンセプトが形づくられていきました。その後、小室さんはロンドンに移住してサウンドトラックの制作を手がけつつ、アルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991-』の音づくりに着手しました。

ウツと木根さんが合流して、歌を入れる。現地のミュージシャンやエンジニアが参加し、録音はAIRスタジオを含むいくつかのスタジオで行なわれました。アルバムは1988年12月にリリースされ、大規模なライブ・ツアーが催されました。木根さんは物語のディテールを作り込み、ツアーの途中で小説は完成します。

◇◇◇

物語「CAROL」の核とも言える四つの曲が、「CAROL2014」組曲として、新たな姿に生まれ変わりました。ソフト・シンセの音を軸にして、ギターをマーティ・フリードマン、ベースを美久月千晴さん、ドラムを村石雅行さんが担当しました。マーティがTM NETWORKで弾くのは初めてですね。ミックこと美久月さんは2000年に「MESSAGE」という曲に参加しています。村石さんは2002年のシングル「CASTLE IN THE CLOUDS」で叩いています。

オリジナルのアレンジ、2014年のアレンジに共通するのは、音の層が美しいということですね。音の種類は異なるけれど、それぞれの音が重なり、絡み合い、引き立て合う。いくつもの音が張り巡らされ、聴くたびに新たな音に出合うことができます。1988年の音と2014年の音を並べてみるのも楽しい。歴史を積み重ねたロンドンのスタジオで、その空気を音と一緒に録ったのが1988年の「CAROL」。対して、2014年の「CAROL」はソフト・シンセの音を軸にしており、日進月歩の速度でアップデートされた音が鳴ります。

◇◇◇

CAROLのテーマ曲は二つに分かれています。そのひとつである「Carol (Carol's theme I)」は、ゆったりとした曲調で主人公キャロルの姿を歌います。ピアノとストリングスの音がキャロルの輪郭を浮かび上がらせます。ミックさんのベースがとてもいい雰囲気を出していますね。村石さんのドラムとともに、曲をしっかりと支えている。

「CAROL」組曲の随所でストリングスの音を聴くことができます。「CAROL2014」のストリングスはソフト・シンセで構築され、控えめにミックスされています。他のシンセサイザーの音が際立っているのは、そのためでしょうか。1988年のオリジナルでは、アン・ダドリーが編成したオーケストラによる演奏を加え、曲に厚みを持たせています。静謐な雰囲気を演出するときもあれば、駆け抜ける風のように響くときもある。キャロルの前に立ちはだかる巨大な壁にもなる。


2014.11.24
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by mura-bito | 2014-11-24 12:55 | Music | Comments(0)
New songs: If you can/Always be there/Alive -TK Mix-
QUIT30

QUIT30

TM NETWORK


アルバムの一枚目の最後を飾るのは「If you can」という曲です。タイトルに動詞はありません。何をするのか、何ができるのか。歌詞からイメージしてもいいし、自分が思い描く言葉を当てはめてもいい。音を聴きながら、いくつものイメージを解き放ち、それらが広がるのに任せてみましょう。

詞を書いたのは松井五郎さんです。安全地帯を始めとした多くのポップスの詞を手がけたことで有名ですよね。過去に一度だけ、松井さんはTM NETWORKに詞を提供しています。1985年にリリースした「ACCIDENT」という曲です。2014年にはリメイク版がアルバム『DRESS2』に収録されましたし、ライブ・ツアー「TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end」でも披露されました。このときの「ACCIDENT」の詞との再会がきっかけだったのでしょうか。再び、小室さんの曲に松井さんの詞が乗ります。

「If you can」の言葉のはめ方を見ると、職人芸というべきか、プロフェッショナルの仕事だと思えますね。メロディにきっちりと乗っているし、言葉のバリエーションやリズムも考えられている。小室さんはラップのような感覚で言葉をはめるし、言葉に合わせて譜割を変えることもある。言葉と曲は一体化して作り込まれます。作詞家は与えられた曲に合わせて言葉を考え、はめていくのが仕事なので、作詞のプロセスは異なって当然ですが。

◇◇◇

「Always be there」を最初に聴いたとき、大切な人に向けて書いた手紙を読ませてもらっているような気がしました。小室さんが詞を書いています。口に出すと照れてしまう言葉だけれど、文字にするからと言って美辞麗句を並べるわけではない。気持ちが伝わる言葉が並び、読まれるのを待っています。その言葉の連なりは心を激しく揺さぶるのではなく、そっと揺らす。

♪思い出を敬う♪という言葉が記憶に残ります。思いもよらない言葉の組み合わせです。思い出に浸る、思い出を大事にする、思い出にすがる。思い出という言葉は良くも悪くも強く、意識が吸い寄せられ、場合によっては依存する。では、敬うという言葉をつなげるとどうなるでしょうか。少し離れたところから見ている雰囲気があります。その存在を認めながら、そこに取り込まれていない。自分の一部であることを、過去の一部であることを自覚しながら、気持ちを寄せ、肯定します。

「Always be there」はコーラスから始まり、コンガの音でシンプルにつくられたリズムが柔らかい印象を与えます。オルガンの音は聴き手を包み込むように響き、それでいてどこか冷静さを含む。クールに振る舞いながらも、優しすぎない優しさを感じさせます。曲の終盤でドラムが入ってくると、気持ちはぐっと盛り上がります。言葉が迫ってきて、静かにゆるやかに熱を帯びます。

◇◇◇

アルバムの最後には「Alive」のリミックスが収録されています。小室さんが音を選び直し、新たな音を加えてミックスしています。これまで追究してきたEDMの流れを汲むリミックスであり、キックの音が強く迫ってきます。キックがミュートされると、音が戻ってくるのが待ち遠しくて、再び鳴った瞬間の興奮が増幅します。さらに、ソフト・シンセの太い音で弾いたリフが四つ打ちに乗り、サウンドはEDMの色に染まります。このリフがオリジナルよりも前に出てきて、強烈なインパクトを残す。シンセサイザーの音の魅力をプレゼンテーションしているミックスです。

EDMというジャンルはもはやひとつに括るのが難しく、何が主流で何が傍流なのか分かりません。いくつかのジャンルに近づき、交わり、時として呑み込んだ結果、流行り言葉のように扱われているのが現在のEDMだと思います。流行はすぐに廃れる。ダンス・ミュージックはいつの時代も仇花として短い命を散らせてきました。その歴史にEDMも名を連ねるのでしょうか。

ダンス・ミュージックのリズムはポップスに入り込み、もはや不可分の存在になっている。それを考えれば、ソフト・シンセの音もEDMを媒介にしてポップスやロックに移植されているのかもしれません。ここ5年ほどでソフト・シンセの音を軸にした音楽が世界を駆け巡ったことは確かです。版図を広げた帝国が縮小するようにEDMという言葉がローカルなものになったとしても、あちこちに埋め込まれたソフト・シンセの音がこのムーブメントの影響力を示している。

EDMに限らず、音楽は混沌に向かっている、あるいはすでに突入しています。ソフト・シンセもハード・シンセも生楽器も同列に扱ってディレクションできる人がおもしろい音を生み出していく。そんな気がします。


2014.11.16
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by mura-bito | 2014-11-16 13:55 | Music | Comments(0)
New songs: Alive/STORY/Mission to GO
QUIT30

QUIT30

TM NETWORK


アルバム『QUIT30』には組曲「QUIT30」の他に、アルバムのために書き下ろした曲がいくつかあります。アルバムの軸である組曲「QUIT30」からは離れ、独立した世界を描く曲です。小室さんの曲に加え、木根さんが書いた曲を聴くこともできます。木根さんの曲が新曲として発表されるのは、2007年のアルバム『SPEEDWAY』以来ですね。

◇◇◇

「Alive」、「STORY」、「Mission to GO」は、いずれもみっこ(小室みつ子)さんが詞を手がけました。みっこさんとTM NETWORKが組んだ曲は、もう数え切れませんね。デビュー・アルバム『RAINBOW RAINBOW』に参加してから30年。TM NETWORKの黎明期から、いくつもの印象的な詞を生み出してきました。「SELF CONTROL」や「GET WILD」などのTM NETWORKが躍進する原動力となった曲や、「BEYOND THE TIME」や「SEVEN DAYS WAR」といった映画の主題歌の詞も彼女が書いています。

少し離れたところで今起きていることを眺めながら、未来に向けた言葉を連ねる。言葉は抽象的なレベルから、目の前の相手まで自在に行き来します。前を向く明るさとともに、どこか冷めた視点も感じる。みっこさんの詞はJ-POPのシングル曲として役割を充分に果たしながら、多くを語らない単館上映の映画のような空気を漂わせます。

「Alive」では、複雑に絡む世界に生きる人々と、それらを分かつ境界線の存在を描きます。「STORY」では、音楽とともに生きてきた仲間たちの思いを綴り、寄り添います。そして、「Mission to GO」では宇宙を旅するボイジャーに人々の生きる姿を重ねます。それぞれに物語があり、短編集のようなおもしろさがありますね。ひとつひとつの世界は小さいけれども、その中の物語は大きく広がる可能性を持っている。

◇◇◇

「Alive」はアルバムの冒頭に配置され、先陣を切る役割を果たします。口ずさみやすいメロディと、駆け抜けるような勢いを感じさせるリズム。ストレートな日本のポップスという感じを漂わせつつも、リズムはダンス・ミュージックの要素を含みます。シーケンサーの音が鮮やかに光り、曲を彩ります。J-POPの雛型と言うべきか、1980年代後半から1990年代にかけて成長したユーロ系のポップスかなと思います。端々に漂う哀愁はヨーロッパの香り。

なるほど、音の雰囲気や言葉のはめ方は1980年代、すなわちTM NETWORKの最初の十年に近い、と言えなくもない。けれども、響いてくるリズム、駆け巡るシンセサイザーの音は、紛れもなく2010年代です。ふとイメージが浮かびます。2014年4月のアルバム『DRESS2』で、タイムマシンに乗って1980年代からやってきたひとりの音楽家。そのまま2014年に留まり、目の前の音に惹かれて、それを使って新たな曲を生み出す。その音楽家は2014年の出来事を記憶に刻み、やがてタイムマシンに乗り込み、元の時代に帰るのでしょう。

◇◇◇

「STORY」は木根さんが書き下ろしたポップスです。木根さんが書くTM NETWORKの曲はテンポがスローだったりミディアムだったりしますが、小室さんが書くアップテンポの曲とのコントラストが生まれます。これはデビュー当時から変わらないポジションですね。木根さんが書いたメロディをウツが歌い、小室さんがアレンジして曲を完成させる。「キネバラ」と呼ばれるTM NETWORKのバラードは、変わらない三角形を描いて聴き手に届きます。

「STORY」の主役は木根さんのメロディであり、小室さんのサウンドはいわば助演。聴き手がメロディの良さを堪能できるようなサウンドを構築します。テンポが緩やかになるほど、リズムの重要性は増します。曲が重くならないように、軽くならないように。木根さんが書くメロディは柔らかく、時として気持ちを集中させて強く響きます。音は川の中にある石のようなものでしょうか。メロディの流れを止めないように、けれどもさらりと流れていかないように。シンセサイザーとアコースティック・ギターとリズム・トラック。薄く重なり、それぞれが透過して色が混ざり合います。

◇◇◇

「Mission to GO」はシンセサイザーの音が全体をぐいぐい引っ張る曲です。硬く鳴る音と丸みを帯びた音が組み合わさって、ぐるぐるとループして軌跡を描きます。ソフト・シンセの音は、曲面や平面が美しく設計されたプロダクトをイメージさせますね。無機質なのだけれど、その感触は冷たくない。美術館に飾られたアートではなく、生活の中にフィットするデザイン。小室さんは、音を丁寧に構築することで、ソフト・シンセの音をポップスやロックに混ぜて世に出しています。

宇宙に浮かぶ星々をとらえた映像に合わせて、この曲を流してみたらどうでしょうか。歌詞と混ざり合い、音が旅を始めるかもしれません。星と星の間を航行する音。みっこさんの言葉を乗せ、音はどこかに向けて飛び続けます。ボイジャーに感情があるとすれば、当初の役割を終えて星々の間を進む今、何を思うのでしょうか。それを人間の営みに重ねると、どのような思いが浮かぶのか。過去に課されたミッションが終わり、飛行体は進むことそのものをミッションとして飛び続けます。未知の世界を進み続け、未知のものに遭遇する。


2014.11.12
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by mura-bito | 2014-11-12 21:19 | Music | Comments(0)
New mix for QUIT30: LOUD/君がいてよかった
QUIT30

QUIT30

TM NETWORK


シングル曲「LOUD」のアルバム・ミックスでは、ピアノに近い音で奏でるシンセサイザーがフィーチャーされています。その音が顕著なのはソロを弾く間奏部分ですが、他にもBメロで聴くことができます。さらに、曲の最後ではギターが満たしていたところを、このシンセサイザーの音で埋めています。おそらく、オリジナル・ミックスでは間引かれていた音。丸みを帯びていてそれほど目立つわけではないのですが、裏で鳴るシンセサイザーとともに記憶に残るし、音のレイヤーを楽しむことができます。曲を飾り、いいアクセントになっています。

シングルでミックスを担当したのはDave Ford。十年以上も前から、小室さんの作品のミックスを手がけているベテランのエンジニアです。一方、アルバムでは、Dave Wayというエンジニアによってミックスされた音源が収録されています。彼のミックスの特徴かどうかは不明ですが、シングルのときよりもロックの雰囲気を感じますね。それを強く感じるのがリズム・セクションです。

スネアの音が抜けるように調整されていて、クリアに聞こえて気持ちいい。特に、展開が変わって盛り上がっていく終盤はスネアの音が全体を引っ張っていく。キックとスネアが織り成すリズミカルな展開は、まるでピッチにおける息の合ったパスワーク。スネアが引いてキックだけになると、キックの魅力が何倍にも増して拡散します。スネアが屹立するほどにキックの厚み重み深みを感じられる。どちらの音も魅力的だからこそ実現する相乗効果です。

◇◇◇

「君がいてよかった」という曲は、シングル「I am」に収録されています。Chorusから始まり、音とボーカルが並んで走り出し、その勢いを維持したままVerseに駆け込み、走り続ける。イントロの序盤で、ウツの♪One, two♪というカウントが入り、曲を加速させます。アルバムではこのカウント部分にエフェクトをかけて、力強く、前に押し出していますね。声のバランスを調整することで、ぐっとアクセルを踏み込み、曲をトップスピードに押し上げる。

アルバム・ミックスで大きく変わった要素といえば、やはりエレクトリック・ギターの音が加わっていることでしょう。もともとシンセサイザーやベースの太い音によって分厚いサウンドになっていましたが、そこにごつごつしたロックの手触りが加わり、タフになっています。終盤になるとギターの音が前に躍り出て、鋭いフレーズを差し込んできます。ステージの中央でギタリストがボーカリストに近づき、背中を合わせて演奏しているようなイメージが浮かびますね。

◇◇◇

各曲のアルバム・ミックスを聴いて思ったのは、音のバランスを変えることでロックに寄った感がある、ということです。オリジナル・ミックスがシンセサイザーを前に配置していたためか、その対比でギター、ベース、ドラムといった音が強めに鳴っていると感じます。シングルはダンス・ミュージックとポップスを混ぜた音だとすれば、アルバムの音はダンス・ミュージックとロックのハイブリッドと言えるかもしれません。

さらに、ボーカル・トラックが前に出るようにミックスされていることも共通していますね。ミックスを依頼するとき、ボーカルやコーラスの処理のイメージだけを伝えて、他はエンジニアに一任していたのかもしれません。TM NETWORKの特徴のひとつは三人で生み出す声のレイヤーです。1984年のデビュー・アルバムから重視していた要素ですが、2012年以降は、特に重きを置いています。三人の声からは、色褪せない魅力と同時に、時間をかけて生まれた深みのある魅力を感じることができます。


2014.11.06
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by mura-bito | 2014-11-06 21:33 | Music | Comments(0)
New mix for QUIT30: I am/ある日ある時いつか何処かで
QUIT30

QUIT30

TM NETWORK


TM NETWORKは2012年4月25日に「I am」、2014年4月22日に「LOUD」というシングルをリリースしました。シングルの表題曲とそれぞれのカップリング曲をミックスしなおしたものが、アルバム『QUIT30』に収録されています。三人のミキサーが音のバランスやボーカルの処理を調整しています。オリジナル・ミックスのときと同じ素材を扱いながら、強弱のつけ方を変えたり使う音を入れ替えたりしています。原型から大きく離れるリミックスとは異なり、その骨格を残し、輪郭も同じままになっている。立体的なものに対して、違う角度から光を当てている感じですね。同じものでも受ける印象が変わる。

◇◇◇

最初に鳴るのは太く重く、芯のあるスネア。ベースとギターが引っ張るイントロ、そしてその波に飛び乗るようにコーラスが響きます。心地よいハーモニーに心躍る、そして引き込まれる。「I am」のアルバム・ミックスは、大胆に音を抜き差ししなくても、ここまで印象が変わるのか、という驚きをもたらします。ミックスを手がけたのはMarti Frederiksen。彼は作曲家、プロデューサー、演奏家、エンジニアなど、いくつもの顔を持ち、Aerosmithを始めとした数々のバンドの楽曲制作に携わっています。

シンセサイザーの音が後衛に下がり、その他の音がフロントに立って曲の印象を決定づけています。キックやスネアの音が強められており、勢いよく曲を貫くベースの音が体感速度を上げる。ギターを弾くのは、Lim Bizkitに所属していたMike Smithです。彼のギターはオリジナルでも充分にインパクトがありましたが、アルバムではギター・ロックの雰囲気を出すくらいに前に出ています。

三人の声は立体的に配置され、それぞれが前に出たり、下がったりします。ウツがリード・ボーカルであり、木根さんと小室さんがコーラスを重ねるというのが基本的な役割ですが、聴いているとその境界線が消えていきます。語尾のはね方や切り方に注視してみると、ボーカル・トラックのテイクが違うようにも聞こえますが、エフェクトの方法や割合によって変わるものなのでしょうか。流れるように言葉を生み出すラップの雰囲気が漂いつつも、メロディの輪郭はくっきりと見える。小室さんがメロディと詞を併せて書くときの特徴ですね。言葉に合わせて譜割は変わり、同じメロディやテンポでも、言葉の違いによって体感速度が変わる。曲の中で速度や印象が変化する「I am」は、アルバム・ミックスによってその特徴が浮き彫りになります。

◇◇◇

「ある日ある時いつか何処かで」はシングル「LOUD」に収録されている曲です。テンポを抑えた柔らかなポップスですが、ソフト・シンセとアコースティック・ギターが混ざり合うサウンドがシャープな印象を与えます。シンセサイザーのリフとボーカルが並走して、曲を前に進めています。アルバム・ミックスでは、アコースティック・ギターが目立つ割合が下がっており、硬くて鋭角的な印象を受けた音は丸みを帯びてマイルドになりました。その代わりに、エレクトリック・ギターやリズム・トラックが強調されている。オリジナルよりもひとつひとつの音を太くして、サウンドの密度を高め、厚みを持たせています。オリジナルではミックスの段階でカットされたと思われる、シンセサイザーのリフが聞こえます。このリフをメインにしたリミックスも聴いてみたい。

映画を締めくくる主題歌が似合いそうな曲です。2014年春のライブ・ツアー「TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end」では、幕が下りた後、映画のようなエンド・ロールが表示されている間、「ある日ある時いつか何処かで」が流れていました。そんなこともあって、この曲は映画に合うような気がします。物語の終幕の余韻を感じながら、映画館のスピーカーでゆったりとこの歌に浸る。すぐに席を立つのは惜しくて、スクリーンの上をするすると流れていく文字を目で追いかけ、優しげな旋律にじっと耳を傾ける。

アルバム・ミックスにおけるもうひとつのポイントは歌のトラックですね。歌が前に出るようにミックスされています。コーラスは前寄りに配置されていて、木根さんの声がツイン・ボーカルのようにウツと並ぶ場面がある。声の軌跡を感じ取れる瞬間はとても立体的であり、混ざり合うハーモニーとは異なる魅力があります。そして、アウトロで繰り返されるコーラスでは、三人の声がきれいに混ざり合います。シングルではフェイド・アウトして曲が終わりましたが、アルバムでは最後のコーラスをすべて聴くことができます。


2014.11.05
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by mura-bito | 2014-11-05 21:35 | Music | Comments(0)

fujiokashinya (mura-bito)
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