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音楽と物語に関する文章を書いています。
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記憶/空想エディション -inspired by Deuce-
記憶/空想エディション -inspired by Deuce-



エレベーターのドアが開くと、青くて白い光が目に飛び込んできました。床に置かれた球体のランプが光を放っています。眩しくもなく、消えそうなほど弱くもない光。それはまるで月明かりのようでした。よく晴れた夜空に浮かぶ満月。

改めてこのバーを見渡すと、10人も座ればいっぱいになってしまうほどの狭さであることに気づきます。マスターがひとり、そしてカウンターだけの小さな店。首都圏に就職しなければ、そして友人に連れてこられなければ、存在すら一生知らずにいたであろう店です。

カクテルをひとつ注文します。有名な日本人ジャズ・ピアニストのオリジナル曲と同名のカクテルです。ラムとコアントローと…あと、何か。中身がどうこうというよりも名前で決めたようなものです。このような調子だと、お酒の通になるのは果てしなく遠い日です。

程なくして友人がやってきました。この店を紹介してくれた人です。大学を卒業してからもちょくちょく会って話をしており、改めて報告することなどそうないのですが、それでも何か出てくるような気がして、最近どうよ? と尋ねてみます。大したことはない、と言いながらも、幾つかの出来事を話してくれました。女の子を飲みに誘ってみたけれど、色好い返事をもらいながら、二転三転して結局断られたというそのプロセスを話しました。

こちらからも幾つかの出来事を話し、「出来事交換」が終わったところで、忙しそうに彼は席を立ちました。いろいろあるんだよ、と言い残してエレベーターに乗り込みました。マスターが頭を下げているのが目に入りました。

店内に置かれた幾つかのランプが淡い光を放ちます。青っぽい光と濃いオレンジの光があちこちで混ざり合って、微妙な色合いを生み出しています。棚に並べられた瓶やグラスに反射した光が、あちこちで小さくきらきらと光っています。

新しいカクテルをオーダーしたところで、待ち合わせをしていた女性が顔を見せました。高校生の頃からの知り合いで、現在は近くに住んでいることを最近知りました。地元で偶然会ってから、今度はあっちで会おう、と約束していました。

きちんと話すのは何年ぶりだろうか? 電話で短い話をしたり、立ち話で慌しく言葉を交わしたことはあっても、落ち着いて話しこむことはしばらくなかった、と思いながら、話し始めました。仕事の話、共通の知人の話、あるいは昔の思い出話。ふと、彼女が床に置いていた紙袋が目に留まり、それ何? と訊いてみました。

ハードディスクだよ、という答えが返ってきました。外付けのハードディスク。バーの中にハードディスク。そのミスマッチさに呆気に取られつつも、何でそんなの持ってるの? と訊きました。何故それをここに持ってきているのか、という意味だったのですが、返ってきたのは「容量足りないからでしょ」という言葉。思わず、その通りだ、と頷いてしまいました。その通り。

ハードディスクを抱えながら彼女は去っていきました。また会おうよ、と言いながら頭の中では、あのハードディスクの中に彼女の記憶が蓄積されてるのかな、などと想像を巡らせていました。今夜話したことも、たぶん、あの中に収められるに違いない。

再び待ち人を待ちます。隣の客の煙草から上がる煙が光に照らされ、ゆらゆらと漂っているのが見えます。いつもは敬遠している煙草の煙も、バーの空気に溶け込んでいて、全く違和感がありません。

何人かの客が入れ替わって、随分時間がたったなあ…と思った矢先、エレベーターの扉が開き、待ち人の姿が見えました。小中学生の同級生です。現在は美容室のアシスタントをしています。

やはり地元にいる同級生の話になります。誰それはもう結婚している、誰それには子どももいる、などなど。もうそういう話をする年齢になったんだなと、思いつつ、あの頃はどんなことを話していたんだっけな、と記憶を巻き戻してみようとしました。けれども、全く思い出すことができません。10年以上も前のことなど、まるで古代史です。子どもどうしの会話なんて大したことはないので、そんなにいつまでも残っているわけもないのですが。

感傷に浸りかけた頭を振って気を取り直し、彼女の仕事についての話をしようとしたところ、タイム・リミットが来ました。美容師という仕事は休みが変則的ですし、ましてやアシスタントは沢山の雑用をせねばならない、とテレビで見たことがあります。目の前にその当事者がいるので尋ねればよかったのですが、それはまた今度、ゆっくりと。夢に向かって頑張る彼女を見送ります。

ひとりになってしばらく、過去に出会ってきた人の顔を思い浮かべてみました。子どもの頃のままの顔、ぼんやりとしか浮かべられない顔、いろんな表情を見せてくれる顔、もう写真でしか見られない顔。自分の頭にプロジェクターを繋いで、店の壁に沢山の顔を映し出しせたら良かったのにな、と思いました。いくつもの顔が現われては消え、現われては消える。突然それが途絶えて、ブラック・アウト。続きはまた来週。

差し出されたグラスの水を一息で飲み干すと、お金を払い、マスターに礼を言ってエレベーターに乗り込みました。マスターが頭を下げ、僕も頭を下げ、扉が閉まります。ビルの外に出ると、秋の風が思いのほか涼しく、首をすくめてしまいました。雲ひとつない空から、丸い月がくっきりとした影ができるほどの光を降らせていました。


■■■■■
横浜から吉祥寺、吉祥寺から下北沢を
経由して横浜、そして横浜から自由ヶ丘へ。
昨日はやたらと移動した一日でした。
吉祥寺で美容師アシスタントをしている
小中学校の同級生に(ようやく)再会し、
その後、横浜で高校の部活仲間の子と飲み、
最後は自由ヶ丘にて、BARデビュー。

意識して計画を立てたわけでもないのに、
幾つかのことが同じ日に起きたのは不思議です。

それはそれとして。
旧友と言うべきか、昔の知り合いに会うと、
どうしてもあの頃は…という話になります。
振り返るほどの年齢でもありませんが、
10代を振り返るには、20代半ばが
丁度いいのかもしれない、と思います。

25歳辺りで、それまで築いてきたものを
一旦バラバラに解体して、次へ進んでいく。
根拠は全くありませんが、20代半ばは
そういうタイミングであるような気がします。

2006.10.09
by mura-bito | 2006-10-09 17:59
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