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記憶/空想エディション -inspired by METOBAGAWA-
記憶/空想エディション -inspired by METOBAGAWA-



約束の時間まで丁度30分。待ち合わせ場所に早く着いてやることもなかったので、久しぶりに帰ってきた街を散歩することに決めました。迎え盆の前夜ということもあり、人は少なかったのですが、足は自然と人気の少ない方へ向かっていました。少し涼しくなってきた風が心地良い。

5分ほど歩くと、中心街から外れた川にぶつかります。再開発が進み、ぴかぴかした建物が増えてきたと言っても、やはり地方都市。少し離れれば歩く人もほとんどいません。川に沿って歩いていきます。

この川も再開発の一環でしょうか、なにやら工事が行なわれており、整然とした川になってきている気がしました。高校生の頃はこのあたりに来ていたのですが、その度にくたびれている印象を持ちました。中途半端に手入れをしている庭のように、綺麗なのか汚いのか分からない感じの川。

橋が見えます。思えば、いつもこの橋を渡って向こう側に行ったことはあっても、渡らずにこのまま進んだことはありませんでした。この先には何があるんだろう? と思った瞬間に、足は真っ直ぐの方向に進んでいました。橋の近くにあった、コンクリートが剥き出しのカフェの前を通り過ぎ、初めての領域に足を踏み入れました。

今度は光の量が少なくなりました。これでもかと光を放つ建物がなくなり、寂しげな街灯が点在するのみです。川の様子がよく見えなくなっています。この辺りまで工事が進んでいるのか、進んでいないのか、それとも放置されているのか、判断しかねます。そこにあるのは僅かな光を反射する浅い水の流れです。

川って何かの境界なんだよな…と、以前読んだ小説に書かれていたことを思い出します。最早生活の一部にも組み込まれていない、川という存在。川は自分にとってどのような意味を持つのか。全く考えたことがありませんでした。実家の周りにあったのは、堰であり、それは川ではないと思います。コンクリートの入れ物を流れる水です。そう考えると、自分は川に接して生きてこなかったということになります。自然に囲まれた地域に住みながら、川という存在から遠く離れていたわけです。

目の前の川を見下ろしてみます。この近くに人が住み始めたころの川は、どのような姿だったのでしょうか? 太陽の光、月の光をたっぷり反射している姿を想像します。それを見た人々は何を思ったのか。綺麗だと思ったのか、神々しさを感じたのか、何も思わず、何も感じなかったのか。自分だったら普通のことだと思うでしょうし、その頃の人々も別段気にも留めなかったとは思います。けれど、その「普通」は意味合いが異なっていたはずです。生活の一部に対して注意を払わないという意味の「普通」であり、それは川が身体に組み込まれていたということでもある…たぶん。

ふと時計を見ると、歩き始めてから15分。折り返し地点です。遠くを見遣ると、弱々しい光に照らされた水の塊は、どこまでも続いていくようです。どこまで行っても寂しげな姿なのでしょうか。そしてこれからも同じような姿で居続けるのでしょうか。目の前にあるのは、過去には逆流できない川。


■■■■■
松本市街を「女鳥羽川」という川が流れています。
これは、松本駅と松本城の間を流れる川です。
高校の帰りに松本駅前の店に寄る時は、
必ず橋を渡って横切っていきました。
川の存在など、意識したことはありませんが。

「文明は河川の近くで生まれた」と、
歴史の授業で聞いても、身近な川について
何も考えなかったのは、当然と言えば当然ですが、
それだけ切り離されているということなのでしょう。

環境問題のように、「自然を考える」と言うと、
なんだか遠くに行ってしまう気がするのですが、
人間の生活とどう関わってきたのか、
「自然を知る」と言う方が身近に感じられる。

それくらいが丁度いいような気がします。

2006.09.24
by mura-bito | 2006-09-24 18:21
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