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音楽と物語に関する文章を書いています。
ワイルドじゃなくてもいいからタフになりたい
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高野雀 – あたらしいひふ
「かっこいい服を着たい」と思うようになったのは、いつだったっけな…と、記憶を巻き戻して20年ほど遡ります。中学生の頃だったか、あるいは高校生になっていたか。もちろん欲しい服をたくさん買えるわけでもなく、そもそも、着たい服があってもどう組み合わせていいかもわからず、ただ気に入ったものを買うだけでした。頼れるのは自分のインスピレーションのみ。まあ、個性を逸脱して奇抜な方に向かってしまうこともありましたが…(くろれきし)。

http://www.shodensha.co.jp/chirayomi/atarashiihifu/

懐かしい記憶を巻き戻したのは、高野雀さんが描いた『あたらしいひふ』という漫画を読んだからです。高野さんは『低反発リビドー』という作品を「WEBコミック ぜにょん」というサイトで連載していました。僕は高野さんの画風が好きなのですが、『あたらしいひふ』を読み、その絶妙なストーリーテリングにも惹かれました。服をテーマにした四人の女性の物語。ひとつの話が次につながり、そしてまた次につながっていく。

「隣の芝生は青い」とは、よく言います。他人が持っているものはいいものに見えやすいし、いつだって理想と現実にはギャップがある。ただ、そうしたずれをいくつも集めてパズルのように組み合わせてみると、ちょっと不思議な世界が浮かび上がります。『あたらしいひふ』に描かれているのは、そんな世界です。自分にないものを持つ人を羨みつつ、そんな自分も誰かに羨まれている。自分にとっては不本意だったり、身を守るためにやっていることが、外側から見れば魅力的で賞賛すべきものと受け止められる。自分で感じるコンプレックスが他人から見るとそうでもない、というのはよくあることです。

変わりたいと思う気持ちは皆あれど、どのように変わりたいか、ということは千差万別ですよね。自分の置かれた環境で、それを受け入れたり、あるいは争ったりしつつ、一方では自分にはないものを求めてもいる。言葉に出さなくても、例えば誰かの服装を、思わず目で追ってしまう。そこに自分にはないものを見つけ、少し羨む。『あたらしいひふ』では、四人の過去の出来事から現在の姿、そして自分の少し前を歩くものを描きます。四つの世界は巧みなストーリーテリングによって少しずつ重なり合い、心地好い読後感が残ります。

***

本筋とは異なりますが、途中で出合う言葉が印象的だったので、ピックアップしてみます。例えば、作中に「どうしてみんなそんなかっこわるくて平気なの」という台詞が登場しますが、不意を突かれたように、はっとしました。それは普段、よれよれのスーツを着て通勤する人々の後ろ姿を見ながら、僕が思うことだからです。本作では、セーラー服を規則どおりに着ることに何の意味も見出せない高校生が苛立ち、むしろ受け入れる同級生に対して胸の奥で毒づきます。教師からは注意されるし、同級生とは分かち合えない。

そんな彼女がショー・ウィンドウ越しに、見たことのない服と出合います。その服を試着した瞬間に登場する「世界は一瞬で変わる」という言葉や、世界が変わった瞬間に浮かぶ表情が鮮烈な印象を残します。自分にとって普通ではない服を選び、着ることが彼女の行動原理になっていきます。世界が変わるくらいに自分を揺さぶる服に出合いたいのかな、というのは僕の推測ですが、なんとなく自分と重なるものがあります。

学生の時期を過ぎて働くようになってからも、彼女は他人と異なる服を着ています。ある時、世間受けするような服装をした女性に出会い、ふと考え込みます。目の前の女性は、自分が格好悪いと思って避けてきた系統の服をさらりと着こなしている。相手から「無難な服しか持っていない」と聞いて、一層困惑します。無難だとわかっていながら何故着られるのか、何故似合うのか。学生時代とは異なる次元で、似たような問いを突きつけられます。

***

服に興味がある人も、それほどない人も、おもしろく読める漫画だと思います。何かしら重なるところがあるはずだし、そこから物語の中に潜り込むことができる。そこかしこに散りばめられたコミカルなタッチの表情に、思わず気持ちが和みます。じっくり考えたい人も、軽快なテンポを楽しみたい人も、流れるように進む物語に身を任せて、リズムに乗ってページをめくっていきましょう。最後のページまで余すところなく楽しめますよ。

2015.06.09
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by mura-bito | 2015-06-09 22:28 | Visualart | Comments(0)
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