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BE TOGETHER/CUBE -- the beginning of the end
TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end

TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end

TM NETWORK


「RAINBOW RAINBOW」のエンディングで鳴っていたキックの音と入れ替わり、「BE TOGETHER」のイントロが始まります。リメイク版のイントロはオリジナルよりも長くなっています。絵の具を水の中に入れてゆっくり撹拌していくように、シンセサイザーの音が広がり、エネルギーを溜め込みます。アルバム『DRESS2』の音の上に、小室さんは新たなフレーズをソフト・シンセで弾いて重ねます。明るくてキャッチーなフレーズは、そこから発展させて新たな曲ができるかもしれません。小室さんはライブで弾いたフレーズをもとにして曲を書いたこともあります。新たな音の探究もさることながら、演奏しながら新たなメロディを見つけ出す姿勢は小室さんの特徴です。

充分に蓄積されたエネルギーは、Ruyの叩くビートに合わせて一気に放出されます。曲は勢いよく発進し、音が音を後押して、スピードを上げていきます。「BE TOGETHER」はセット・リストのどこに置いてもライブを盛り上げ、加速させ、熱気を生み出すアクティブな曲です。ウツはマイク・スタンドからマイクを外して歌うし、木根さんはステージ上を移動して小室さんの近くで弾いたり、ドラム・セットのそばに行ったりします。サビに入る前の一瞬のブレイクでは、ウツと木根さんがくるりと回ります。体調の思わしくなかった2013年のライブでもウツは回ったほどの定番のパフォーマンスです。そして、今回のライブ・ツアーの千秋楽では、二人とともに小室さんも回りました。鍵盤の端から端までを流して弾きながらその勢いで回る。ライブは一層盛り上がります。

間奏ではRuyのプレイがフィーチャーされます。彼は2012年と2013年のライブでもTM NETWORKや他のサポート・ミュージシャンと共演し、キャリアの差を感じさせない演奏を披露してきました。特筆すべきは2013年のライブで、葛城哲哉、松尾和博というギタリストたちとともに演奏したことですね。シンプルに音で会話して、音だけで互いを認め合う。涼しい顔で歴戦のミュージシャンと渡り合う姿はすごいと思いましたね。このライブ・ツアーでもサウンドを支え、時としてバンドを引っ張るプレイを見せます。「BE TOGETHER」のコアは彼の叩くビートであることは疑いようもありません。

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ヒートアップした会場の空気を和らげ、ニュートラルに戻すかのように、空白の時間が訪れます。会場は闇に包まれ、観客は次に来る音を待つ。すっとスポットライトがステージを照らすと、ウツが歌い出します。この曲は「CUBE」といい、2000年にリリースされたアルバム『Major Turn-Round』の最後を飾りました。タイトルは、ヴィンチェンゾ・ナタリの映画『CUBE』からとられていると考えられます。

「CUBE」を作曲したのは木根さんです。木根さんのエッセイによれば、ピアノを弾きながら作曲しているところに小室さんがやってきて、すぐに気に入り、その場でいくつかの音を録ったとのこと。「30年にひとつの名曲」とは小室さんの評です。それだけ評価しているわけですから、小室さんは大いに触発されたのでしょう。アレンジも一筋縄ではいかず、それまでの曲にはない仕掛けを試みます。メロディと音と言葉が組み合わさって、強烈な印象を残します。

曲はゆるやかなピアノの音から始まり、いつの間にか、ハモンドが鳴り始めます。ピアノとハモンドが重なる音を背景にして歌が入り、淡々と言葉を連ねていきます。やがて、歌の温度が一気に上がり、気持ちをぶつけるかのように言葉を吐き出すと、それに呼応するようにギターとベースが重なる。そのまま一気に盛り上がってクライマックスに到達するかと思いきや、ギターとピアノは姿を消し、代わりにモーグの音が響きます。残された音はメランコリックな響きを漂わせ、その静けさは徐々に世界の彩度を下げていく。モノクロームに染まる世界の中で、誰に語るでもなく、ウツは最後の一節を歌います。まるで言葉を残して消えていくかのように、曲とともにアルバムの幕が下ります。

サポートの二人は袖に消え、ステージに立って「CUBE」を演奏するのはTM NETWORKの三人です。木根さんのアコースティック・ギター、小室さんのシンセサイザー、ウツの歌。シンプルな構成で、奥行きのある曲が披露されます。深海に向かって潜っていくようなメロディです。詞を書いたのはTM NETWORKの多くの作品に参加している小室みつ子さんです。内省的な歌詞からは、からっぽな部屋の中にいて独白している誰かの姿が浮かびます。世界は大きなcube。自分の心は小さなcube。大きなcubeの中に転がっている小さなcube。小さなcubeの中に、自分は存在している。

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何か違和感がある。記憶の一部に刻まれた何かが違っている。やがてその差異に思い至ります。アルバムに収録されたときと今回のライブでは、歌詞が変わっていました。♪密室みたいに世界は息苦しい♪という部分が♪屋根裏みたいに世界は息苦しい♪という言葉に変わりました。「屋根裏」も閉塞した空間ですが、「密室」のような行き場のない絶望ではなく、窓という外とつながるラインを持っています。そこには希望めいたものが残る、と考えられます。変化した歌詞は、もうひとつあり、それは最後のフレーズです。♪I don't care what's going on out of my empty cube♪が♪I don't care what's going on out of my empty cube. everyone♪になりました。その後に、♪I don't care what's going on out of my tiny and empty cube♪という言葉が続き、曲は終わります。

誰もがcubeの中にいる。それぞれのcubeの中にいる。cube同士はつながっていない。cubeの外で起きる出来事に目を向けることはない。からっぽなcubeが自分の世界のすべて。けれども、いつしかそれはからっぽなだけではなく、退屈な、あまり愉快なものではないことに気づく。cubeの中にしか向かなかった意識が、外に向かうようになる。自分の声を聞いてほしい。聴いてほしい。からっぽだった心の中に、他者への意識が芽生える。cubeの中の心は揺れ動きます。cubeから抜け出したくない。同時に、変化を渇望している。どこに向かっていくのか、どこにたどり着くのか、自分でもわからないけれど。大きなcubeの中で、小さなcubeがいくつも、揺れ動いている。

RETRACE/LOUD/Scene1/COME ON LET'S DANCE/KISS YOU
Scene2/永遠のパスポート/ACCIDENT/金曜日のライオン
Scene3/RAINBOW RAINBOW/BE TOGETHER/CUBE
Scene4/I am/JUST ONE VICTORY/KEYBOARD SOLO/GET WILD
Scene5/SELF CONTROL/Scene6/BEYOND THE TIME/Scene7


2014.10.05
by mura-bito | 2014-10-05 12:25 | Music
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